スポンサーリンク

ピエールの選ぶ「2022年オススメ新譜5選」Vol.17

Pocket

さて、木曜日恒例……とか抜かしながらバキバキに遅刻したこの企画、今更ながら更新です。「オススメ新譜5選」ですね。バックナンバーはこちらから。

……もう皆さん先々週のリリースのことなんて忘れてるでしょ?何がとは言わないですけど、ちょっと13日の金曜日にえらいことが色々あったもんですからね。だからこそ、忘れた頃にこの企画ですよ。そういうことにしておきます。

いやね、もうこの際先週の分は休載にしてもいいかなとは思ったんですよ。遅きに失した感があまりに大きいので。でも、しっかりいい作品がこの世に生を受けているというのに、それを紹介できずじまいというのはやはり後味が悪い。

ということで、臆することなく先々週のリリースをレコメンドしていきます。それではどうぞ。

“WE”/Arcade Fire

Arcade Fire – The Lightning I, II (Official Video)

今回のこのシリーズを休めなかった最大の理由はこれですね、00’sインディー・ロックの真打、アーケイド・ファイアの5年ぶりとなるアルバム、“WE”があるとなっては……

聴いた時の第一印象は「安定感あるな」という感じでしょうか。温もりがあって、壮大で、それでいて現代的な感覚もしっかりとある。アーケイド・ファイアが賞賛されてきた所以はしっかりと表現されている、期待に応えてくれる1枚であることは事実です。

ただ、どうにもこじんまりしているというかね……いえ、サウンド・プロダクションは紛れもなくシンフォニックなんですよ。ただ、それこそ彼らの最高傑作“Funeral”で感じられた、生命力のうねりの如き雄渾な力強さ、マジカルな煌き、それがないんですよ。「形式的な壮大さ」とでも言いましょうか。

別にそれは作品としてのクオリティを損なっている訳ではないんです。ちゃんとここで紹介できるだけの、私にとってこの作品のレコメンドが嘘にならない音楽作品ではある。ただ、円熟されすぎているんでしょうかね……比較対象が”Funeral”というのもそもそもが酷な話ですし。

こじんまりなんて悪し様に言ってしまいましたけど、言い換えればそれってよくまとまっているということですから。アルバムとして聴かせる意識もそこここに滲んでいるし、やはりアーケイド・ファイアらしい心地よさはきちんと出してくれています。抜け目なく仕上がった作品と言ってもいいでしょうね。

“HARMONY”/SPOILMAN

Cairo

記事の展開の都合上、アーケイド・ファイアを先頭に持ってはきましたけど、個人的なイチオシはこれですね。日本の3ピース・バンド、SPOILMANの3rdアルバム“HARMONY”です。

Twitterでこの作品を激賞されている方がいて、邦楽ロックの新譜もたまには聴くかと思ったら……これは度肝を抜かれました。もはや殺意と言ってしまっていいレベルのひりついたアンサンブルの応酬でよ。1曲目の“Cairo”の時点で12分オーバーの超大作で、ものすごく強引な緩急が聴き手を油断させてくれない。

で、この油断させない尋常ならざる緊張感こいつがアルバム全編通じて一切途切れず持続するのがもう最高ですよ。聴いていて実に疲れるし、心地よさなんてカケラもない。もちろんいい意味でですよ。こちらの精神をすり減らすような迫力のあるサウンドなんですから。

ただ、聴きにくくはないんですよね。この手のジャンルって、ともするとテクニック至上主義に走りがちで「上手いのはわかった、すごいすごい」ってな風に食傷気味になるんですけど、このアルバムは根っこのリズムがすごくヘヴィでね。軸足がブレないというか、その分さらに本気で人を殺しそうなドスの効いたロックに仕上がってるんですが。

現行のシーンで言うと、そうだな、海外ではありますがblack midiにピンときた人は間違いなく大好物な気がします。ってことは古くにはキング・クリムゾンまで遡れる訳ですけど、そういう「冷酷無情なギター・ロック」という一群で語っても全く違和感のない作品だと思います。

“A Bit Of Previous”/Belle And Sebastian

Belle and Sebastian – "Talk to Me, Talk to Me" (Official Music Video)

さあ、お次はみんな大好き「ベルセバ」ことBelle And Sebastianの新譜、“A Bit Of Previous”です。いやあ、いつも通りのアルバムでした。

ここで言う「いつも通り」というのは褒め言葉で、ベルセバの音楽って劇的な展開や音楽的な革新性をまるで欠いたものじゃないですか。ジャンルの上では一応ネオアコですけど、彼らってオルタナ通過後的に70’sのSSWを咀嚼したバンドとも解釈できると思っていて。

だからこそ彼らのキャリアには一定のリズムがあったし、それは音楽史上で絶賛される大名盤にはなり得ないけれど、でも毎回しっかり名作で。その中にしっかり加わってくれる1枚ですね。勿論そこには変化はあって、本作に関して言うとそれはハキハキとした明るさの表情だったりするんですけどね。

そう、サウンドのアプローチという点では幾分か現代的になってはいて、徹底的に素朴でアコースティックという感覚ではないんです。なんか80’sばりにシンセが目立ってる曲もありましたし、ビートもすごくデジタルな質感でね。ただ、根っこの部分の温もりや色彩感覚がいつも通りだからこそ、若干の違和感こそあれ心構えを崩すことなく楽しめる。

ここで紹介しておいてなんなんですけど、このアルバムは年間ベストには入れないと思います。「2022年を代表するアルバム!」とは思っていないので。ただただ、「ベルセバ、いつもありがとう」という個人的に好きな作品という感じで。

“クモヨ島”/幾何学模様

Kikagaku Moyo – Cardboard Pile (Official Music Video)

日本のロック・バンドながらオランダに拠点を置く幾何学模様のラスト・アルバム、“クモヨ島”です。

バンド名自体は知ってはいましたが、これまで作品に触れる機会はなく。まさか初めて聴くのが彼らのラスト・アルバムになってしまうとは……ただ、ラスト・アルバムに相応しい力作ですね。サイケデリック・ロックの得体の知れない退廃や幻惑をこれ以上なく魅力的に描き切っている、そんな印象です。

1曲目は如何にもアジアンなんですけど全体を見通すと古き良きUKサイケらしい牧歌的な表情もあって、その全体的なイメージは無国籍に仕上がっています。ワールドワイドに活躍する彼ららしい質感ですよね。荒唐無稽な異世界に迷い込んだかのような、そんな謎めいた高揚感すら演出していて。

サイケと一口に言ってもネオ・サイケだったりオージー・サイケだったりその内実はかなり分化が進んでますけど、本作はすごく60’sのサイケに忠実なんじゃないでしょうか。それでいて録音がイヤにクリアで、あの時代にあった荒々しさやドロドロとした魔力はないんですけど。その分世界観の構築に隙がなく、明度の高いトリップを演出しています。

もっと早くに彼らの音楽に触れていたかったですね……きっと本作に至るまでのレガシーも面白いものだと思います。まあ、後追いは私の最も得意とする分野ですから、今後ゆっくり彼らの作品は掘り下げていくつもりです。

“Radiate Like This”/Warpaint

'STEVIE' Official Video (Fixed Focus Version)

こちらはNY出身のアート・ロック・バンド、Warpaint“Radiate Like This”です。

ガールズ・バンドということみたいなんですけど、可憐さと大人びた佇まいのコラージュ具合が見事な作品ですね。作品像としては透明感くぐもった質感が共存していて、まるで曇りガラスのような印象を受けるんですけど、しっかりと歌モノとして成立する強度のある1枚というか。

アンビエントと言われればそうも思えてくるし、エレクトロな雰囲気もあり、でもアコースティックでもあって。総合するとドリーム・ポップのようでもありますし、有機性と無機性のバランスが絶妙です。どちらの魅力も損なうことなく、浮遊感という通奏低音の元にまとめ上げているのがまたニクいじゃないですか。

かなり気に入ったので彼女たちの過去作も合わせてチェックしたんですけど、これまでの作品は結構ダークで、それこそ「アート・ロック」という看板がよく似合うミステリアスな世界観だったんですけどね。ぐっと親しみやすく、滑らかな方向性になっているのが個人的には嬉しいなと。根っこのところはポップス好きですから私。

この作品で出会うことのできるサウンドスケープ、今年のリリースの中で似たようなものは他にないんじゃないかな。そういう意味ですごくオリジナリティのある作品ですし、それでいて毒っ気のない綺麗なアルバムだと思います。

まとめ

さて、先々週のリリースからのレコメンドはこんな感じで。

いつもここで次の日に一斉解禁されるリリースの予告みたいなことするんですけど、もう言わなくても皆さんご存知ですよね。ケンドリック・ラマーにThe Smileにフローレンスにあれやこれや……もう魑魅魍魎ですよ。

Album Of The Yearのレビュー・スコア見てもらったらわかります、ちょっと今週は異常でした。次回は責任持って木曜日に投稿するつもりですけど、今から楽しみですね。まだ聴けてない話題作もいくつかありますし。それじゃあ、今日はこんなところで。

コメント

タイトルとURLをコピーしました