スポンサーリンク

“To Pimp A Butterfly”全訳解説 M.14 “You Ain’t Gotta Lie (Momma Said)”

Pocket

今回も“To Pimp A Butterfly”全訳解説、やっていきます。バックナンバーはこちらから。

さて、もう今週に迫った最新作“Mr. Moral & The Big Steppers”に先駆けて、“The Heart No.5”がドロップされましたね。

Kendrick Lamar – The Heart Part 5

いやあ、焦るからやめてほしい。なんとしても金曜日までには終わらせます。ということで今回は“You Ain’t Gotta Lie (Momma Said)”ですね。

今回、かなりリリックが抽象的で。一貫して手厳しい批判を訴えてはいるんですけど、その対象というのがなかなか見えてこないというか。ひとまず和訳をご覧いただいて、解説の方で私なりに踏み込んでみようと思います。それではどうぞ。

“You Ain’t Gotta Lie (Momma Said)”全訳

You Ain't Gotta Lie (Momma Said)

[Intro]

Study long, study wrong, nigga

Hey, y’all close that front door, ya’ll let flies in this motherfucker

ずっと勉強してろよ ずっと間違い続けるんだ

おい 玄関を閉めてくれ 連中をこのクソみたいなところに連れてこい

Close the door !

My OG up in this motherfucker right now

My pops man with the bottle of Hennessy in his hand, acting a fool

玄関を閉めろって! 俺のOGがいるんだぞ

酒瓶片手にバカをやってる俺のツレさ

Hey, hey, babe check it out, Imma tell you what my mama had said, she like:

おい なあ こっちを見ろよ ママが言ってたことを教えてやるからよ

こう言ってたぜ

[1st Verse]

I could spot you a mile away

I could see your insecurities written all on your face

So predictable your words, I know what you gonna say

1マイル離れてたってあなたを見失ったりしない

顔を見ればわかるわ 不安で仕方ないって

だから何が言いたいかもお見通し

Who you foolin’ ? Oh, you assuming you can just come and hang

With the homies but your level of realness ain’t the same

冗談はやめて ちょっと遊びに出るつもりなんでしょ

地元の仲間と一緒に でもリアルさが彼らとじゃまるで違う

Circus acts only attract those that entertain

Small talk, we know that it’s all talk

We live in the Laugh Factory every time they mention your name

サーカスは観たい人のためだけに演じられる

ちょっとしたお喋り でしょう?あなたのそれはただのお喋り

彼らがあなたの名前を口にする時 私たちはいつものパブにいるの

[Refrain]

Askin’ “where the hoes at ?” to impress me

Askin’ “where the moneybags ?” to impress me

Say you got the burner stashed to impress me

It’s all in your head, homie

「ビッチはどこだ?」なんて質問は自分をデカくみせるためさ

「金の入ったカバンは?」って質問もそうだし

「あのろくでなしを隠してやったぜ」なんて言葉もな

何もかもお前の勝手な思い込み そうだろ?

Askin’ “where the plug at ?” to impress me

Askin’ “where the juug at ?” to impress me

Askin’ “where it’s at ?” only upset me

You sound like the feds, homie

「クスリをどこにやった?」なんて質問もただ自分をデカく見せたいだけなんだろ

「ムショはどこだ?」なんて質問も

「”それ”はどこなんだ?」なんて聞いてくれるな 気が変になりそうだ

チクリ魔のクズみたいに聞こえるからよ

[Chorus]

You ain’t gotta lie to kick it, my nigga

You ain’t gotta lie, you ain’t gotta lie

You ain’t gotta lie to kick it, my nigga

You ain’t gotta try so hard

いきがりたいからって嘘をつくこたないぜ

嘘なんてやめとけ やめろよ

カッコつけるために嘘なんてつくなよ

そんな無理するもんじゃない

You ain’t gotta lie to kick it, my nigga

You ain’t gotta lie, you ain’t gotta lie

You ain’t gotta lie to kick it, my nigga

You ain’t gotta try so hard

いきがりたいからって嘘をつくこたないぜ

嘘なんてやめとけ やめろよ

カッコつけるために嘘なんてつくなよ

そんな無理するもんじゃない

[2nd Verse]

And the world don’t respect you

And the culture don’t accept you

だって世界の誰もお前を尊敬なんてしてないんだからな

どんな文化からも認められちゃいないんだぜ

But you think it’s all love

And the girls gon’ neglect you once your parody is done

Repetition can’t protect you if you never had one

なのにお前って奴は自分が人気者だとでも考えてんだ

その茶番が終わったが最後 女どももお前のことなんて気にしなくなる

お前がそれをもうやらないってんなら 模倣がお前を守ってくれることもなくなるだろうぜ

Jealousy (complex), emotional (complex)

Self-pity (complex), under oath (complex)

嫉妬(お前はそれが憎くて仕方ない)感情的(これもそうだろ)

自己憐憫(我慢できないくらい嫌なんだ)神に誓って(これもだろ)

The loudest one in the room, nigga, that’s a complex

Let me put it back in proper context

誰よりもやかましい奴 そいつもどうしようもなく嫌いなんだろ

筋の通った話をさせてくれよ

[Chorus]

You ain’t gotta lie to kick it, my nigga

You ain’t gotta lie, you ain’t gotta lie

You ain’t gotta lie to kick it, my nigga

You ain’t gotta try so hard

いきがりたいからって嘘をつくこたないぜ

嘘なんてやめとけ やめろよ

カッコつけるために嘘なんてつくなよ

そんな無理するもんじゃない

You ain’t gotta lie to kick it, my nigga

You ain’t gotta lie, you ain’t gotta lie

You ain’t gotta lie to kick it, my nigga

You ain’t gotta try so hard

いきがりたいからって嘘をつくこたないぜ

嘘なんてやめとけ やめろよ

カッコつけるために嘘なんてつくなよ

そんな無理するもんじゃない

[Refrain]

Askin’ “where the hoes at ?” to impress me

Askin’ “where the moneybags ?” to impress me

Say you got the burner stashed to impress me

It’s all in your head, homie

「ビッチはどこだ?」なんて質問は自分をデカくみせるためさ

「金の入ったカバンは?」って質問もそうだし

「あのろくでなしを隠してやったぜ」なんて言葉もな

何もかもお前の勝手な思い込み そうだろ?

Askin’ “where the plug at ?” to impress me

Askin’ “where the juug at ?” to impress me

Askin’ “where it’s at ?” only upset me

You sound like the feds, homie

「クスリをどこにやった?」なんて質問もただ自分をデカく見せたいだけなんだろ

「ムショはどこだ?」なんて質問も

「”それ”はどこなんだ?」なんて聞いてくれるな 気が変になりそうだ

チクリ魔のクズみたいに聞こえるからよ

[3rd Verse]

What do you got to offer ?

Tell me before we off ya, put you deep in the coffin

何をしてほしいんだ?

教えてくれよ お前を墓にぶち込んじまう前に

Been allergic to talkin’, been a virgin to bullshit

And sell a dream in the auction, tell me just who your boss is

喋ることに病的に抵抗感があるんだろ とんでもない嘘に対してはまるで生娘

そんで夢をオークションにかけるんだ お前のボスは誰なんだよ?

Niggas be fugazi, bitches be fugazi

This is for fugazi niggas and bitches who make habitual lyin’ babies, bless them little hearts

あいつらはもうおしまい ビッチどももおしまいさ

どうしようもない連中に向かって言ってんだぜ

奴らは虚言癖のある子どもをこさえるのさ

お気の毒様 心から軽蔑するよ

You can never persuade me

You can never relate me to him, to her, or that to them

Or you, the truth you love to bend

お前らに俺を説き伏せることなんてできっこない

俺を関連づけることなんてできやしない 奴らやあんなものとはな

それにお前らが捻じ曲げたがってる真実とも

In the back, in the bed, on the floor, that’s your ho

On the couch, in the mouth, I’ll be out, really though

背後で ベッドで 床で そうしたいんだろ?

ソファーで 彼女の口で もう帰らせてもらうぜ マジさ

So loud, rich niggas got low money

And loud, broke niggas got no money

The irony behind it is so funny

よく聞け 金持ちの奴らは大して金なんて持っちゃいない

それに壊れちまった奴は無一文

笑える皮肉だろ

And I seen it all this past year

Pass on some advice we feel:

どれも俺がこれまでに実際見てきたことさ

置き土産にアドバイスしてやるよ

[Chorus]

You ain’t gotta lie to kick it, my nigga

You ain’t gotta lie, you ain’t gotta lie

You ain’t gotta lie to kick it, my nigga

You ain’t gotta try so hard

You ain’t gotta lie to kick it, my nigga

You ain’t gotta lie, you ain’t gotta lie

You ain’t gotta lie to kick it, my nigga

You ain’t gotta try so hard

いきがりたいからって嘘をつくこたないぜ

嘘なんてやめとけ やめろよ

カッコつけるために嘘なんてつくなよ

そんな無理するもんじゃない……

解説〜”you”とは誰なのか〜

さて、ここからは解説です。今回語るべきテーマはたった1つ、この厳しい言葉の対象は誰なのか?ここに尽きますね。

内容自体はわかりやすいでしょ?「嘘をつくな」、つまりは誠実であれというラマーらしいメッセージです。ただ、それを誰に向けているのかがちょっと曖昧になっていて。いくつか仮説を立てて見ていきましょう。

①ラッパーに対して

訳しながら私が直感的に連想したのはここですね。同業者たるラッパーに対する批判。このテーマって、“King Kunta”“Momma”でも見られるものですから。

いわゆる「セルフ・ボースティング」ですよね、ヒップホップの世界でしばしば見られる、リリックで自分を強く見せるスタイルです。それにギャングスタ・ラップなんかだと、「犯罪自慢」みたいな内容だってよく登場しますから。

そこに対するノーの宣言なのかなと。「「ビッチはどこだ?」なんて質問は自分をデカくみせるためさ」から始まる一連のリリック、ここのところの“to impress me”という表現が、リリックの上ではいきがって自分を誇示しようとするラッパーの軽薄さへの当てこすりと取れます。

それにこのアルバムの中でラマーは、己の弱さ罪深さを包み隠さず告白していますからね。“u”“How Much A Dollar Cost”なんかにそれは顕著です。彼はこのアルバムを通して、「誠実であること」を体現しています。そんな彼だからこそ、上っ面だけドープに気取ってみせるラッパーが鼻につくんでしょう。

ただですね。こと”To Pimp A Butterfly”も終盤に近づいてきたこのタイミングで、彼が単にラップ・ゲームに対する忠告をわざわざするのかというのは正直疑問で。だってこのアルバムは極めてコンセプチュアルで、その展開にはいつだって必然性があった訳でしょ。

“The Blacker The Berry”で黒人社会全体に切り込む姿勢をすら見せた彼が、ここにきてそれだけの主張をするとはちょっと考えにくい。もっと大きな何かに彼の眼差しは向いていると考えるのが自然だと思います。

②暴力に走るアフリカン・アメリカンに対して

で、ここで次に考えられるのが“The Blacker The Berry”と実は地続きになっているのではないかという発想です。繰り返しになりますけど、”To Pimp A Butterfly”はコンセプト・アルバムですからね。この位置に”You Ain’t Gotta Lie”があるのは絶対に意味があるはずです。

で、同胞であるアフリカン・アメリカンへの警鐘としてこのリリックを解釈しようとすると、まず1つにはさっきも引いた「「ビッチはどこだ?」なんて質問は自分をデカくみせるためさ」からのライン、これはよりシンプルに「犯罪行為によって自分たちの力をアピールするギャング」の姿とも理解できるんです。

「金の入ったカバン」というのは略奪や強盗を連想させますし、「クスリ」「ムショ」なんてのはそのままですね。そういう行為でしか自分たちをアピールできない彼らに対し、そんな態度は「チクリ魔」と同じだと。この「チクリ魔」(=feds)はギャングの世界で何よりも忌み嫌われる存在ですから。

この読解でいくと、冒頭のライン「ずっと勉強してろよ ずっと間違い続けるんだ」も見えてきます。さっき挙げたラップ・ゲームを主体とした理解だと、ここのところの意味が取りにくかったんですけどね。

スヌープ・ドッグ“Gin And Juice”からの引用ではあるんですけど、アフリカン・アメリカンが誤った歴史認識や社会体制を教え込まれることで、正しい価値観や自尊心を損ない続けてきたことへの言及でしょう。

Snoop Dogg – Gin And Juice

あるいは「だって世界の誰もお前を尊敬なんてしてないんだからな どんな文化からも認められちゃいないんだぜ」という部分もですね。アフリカン・アメリカンの冷遇の歴史を極めて端的に語っています。

しかし、ですよ。この読解でもやはり違和感は残るんです。わかりやすいところでいくと、「教えてくれよ お前を墓にぶち込んじまう前に」というリリック。これ、①の読解だと「キング・ケンドリック」が有象無象のラッパーを蹴散らすという中身の伴った主張なんですけど、いくらなんでも同胞に対してここまで言うか?という疑問はどうしたって湧いてきます。

“The Blacker The Berry”の解説でも言いましたけど、どれだけ手厳しく抉りにくるとはいえ、ケンドリック・ラマーには「アフリカン・アメリカンの尊厳」が常に側にあります。そんな彼がこういうリリックを叩きつけるとはちょっと考えにくくて。

③ケンドリック・ラマーにまとわりつく欲にまみれた人間に対して

ならばこういう解釈はどうでしょう?ケンドリック・ラマーの財産や名誉のおこぼれにあずかろうと彼に擦り寄る人々に対する攻撃。ここまでの楽曲だと“Wesley’s Theory”“For Free ? (interlude)”で主題となってきた部分です。

ちょっとこれは無理やりな読解な気もしないではないんですけど、この楽曲の位置づけ“To Pimp A Butterfly”というアルバムの多層性を思えばそこまで強引な理解でもないと思っています。

最初のラマーのママの語りの部分なんて、そういう風に理解しちゃうと「アンクル・サム」「ルーシー」の甘言と本音の入り混じった独白に近いものにも思えてくる。どうしても冒頭のリリックがここまでの2つの解釈だと取りにくいんですけど、ここはすんなりと理解できてしまいますね。

で、彼ら彼女らはラマーに対しときに嘘をつき、時に自身を誇張して接近してきます。それに対する怒りというのもこの楽曲にはあるんじゃないかと。「そんで夢をオークションにかけるんだ お前のボスは誰なんだよ?」というラインなんか、全てを食い物にする資本主義の亡者への当てこすりと、その本質はどこにある?(それは悪意欲望だと本作で再三言及していますね)という問いかけになっている。

その後に出てくる「お前らが捻じ曲げたがってる真実」という一節もこの解釈ならばこそ読み解けると思うんです。ラップ・ゲームだと「真実」ってのがちょっと言葉として大きすぎるし(一応、本当は大したことがないのに嘘で大きく見せようとすることへの言及と読み解けはしますけど)、黒人社会への投げかけとするともっとちんぷんかんぷん。

ただ、ここでは事実を捻じ曲げ、ラマーに甘い言葉を囁く彼ら彼女らへの強靭な宣言という意味合いが出てくる。そのでっち上げや、何かにつけて自分とラマーを紐付けようとする行為に対して、「俺を関連づけることなんてできやしない」と言い切っているんですね。

……さて、ここまで3つの解釈を提示してきました。このどれが正解なのかを私なりにここで示すべきなんですけど、私が思うに正解は①であり②であり③。つまり、ここまでに挙げてきたもの全てを相手取ったリリックになっているんじゃないかと。

だから、対象が曖昧なのはある種当然の帰結だと思うんです。あえて限定することなく、ゆえに広範に彼の主張をぶつけている。そしてそこを読み解く上で必要になる手続きは、この楽曲を見つめることでなく、“To Pimp A Butterfly”で語られた言葉の再考なんですね。

それを象徴するのが、「どれも俺がこれまでに実際見てきたことさ」という一言。このリリックで、一気に楽曲全体のピントが合うんですよね。この楽曲での主張は、ラマーの体験に基づくものであることが明かされる。当然そうですね、ケンドリック・ラマーという稀代のリリシストの本質は、その自叙伝的な筆致にあるんですから。そしてこの”To Pimp A Butterfly”も、常に一人称的に「ケンドリック・ラマー」から見たものが描かれてきた。

となれば、ここまでの内容を全て踏まえたリリックだと読解するのが適切でしょうね。ケンドリック・ラマーという天才は、そういう包括的なアプローチができる人物ですから。

まとめ

さて、今回は“You Ain’t Gotta Lie (Momma Said)”の全訳解説でした。

もうこのシリーズも14回を数える訳ですけど、ここまでの全訳解説の蓄積がリリックの理解を助けてくれるような瞬間が多々あって。それって、この”To Pimp A Butterfly”がコンセプトによって明確にまとめ上げられた厳然たるトータル・アルバムであることを示しているんですよ。

ただ、そのコンセプトの示し方が極めて詩的で。何度も何度も「ミクロとマクロ」のアルバムだと私は提案していますけど、その特質がリリックを読み解けば読み解くほどに明らかになってきます。

その最たる例がこの楽曲だった気がしますね。明確に主題を提示するのではなく、ここまでの内容を踏まえた上で仄めかしにも近い技法で多くの含意をもって進行していく。それは抽象性をも意味するんですけど、それは同時に多義性でもある。

だからこそ、この楽曲はこの位置にあるんだと思います。リリックの特質上ね。この曲を理解するためには、それまでに多くの言葉を尽くしておく必要があるんですから。

……何が恐ろしいって、次作“DAMN”では「収録曲を逆転させることでストーリーが完成する」というギミックを搭載しているんですけどね。ただこれも、“To Pimp A Butterfly”で幾重にも重ねたストーリーテリングの粋に辿り着いたからこそでしょう。

ということで、そろそろ終わりが見えてきました。次回は“i”ですね。今週中になんとか投稿しますので、またその時お会いしましょう。それでは。

コメント

タイトルとURLをコピーしました