さて、今回も“To Pimp A Butterfly”全訳解説、やっていきましょう。
第1回となる前回の投稿告知ツイート、やたらめったら反響ありまして。ほぼほぼ自己満足の企画なので面食らってしまいました。公共性の高いチャレンジだとは言いましたけど、まさかここまでとは。
他にも色々手をつけたいテーマはあるので時間をかけすぎるのも良くないと思いつつ、こうなってしまうと中途半端な出来にはできませんね。気張っていきます。
前曲“The Wesley’s Theory”で成功者の苦悩と資本主義の闇を描いたラマーですが、このインタールードである”For Free ?”でもその主張は続きます。ここでは恋人との口論が描かれている訳ですが、多くの隠喩を背景に持ちながら抽象的に進行していきます。
その部分をできる限り噛み砕きながら全訳してみました。それではどうぞ。
“For Free ?” (Interlude)全訳
Fuck you, motherfucker, you a ho-ass nigga
I don’t know why you trying to go big, nigga, you ain’t shit
Walking around like you God’s gift to Earth, nigga, you ain’t shit
You ain’t even buy me no outfit for the Fourth
I need that Brazilian, wavy, twenty-eight inch, you playin’
I shouldn’t be fuckin’ with you anyway, I need a baller-ass, boss-ass nigga
You’s a off-brand-ass nigga, everybody know it
Your homies know it, everybody fuckin’ know
Fuck you, nigga, don’t call me no more
You won’t know, you gonna lose on a good bitch
My other nigga is on, you off
What the fuck is really going on ?
クソ野郎 クソッタレ フニャチン野郎
何を大物になろうとしてるんだ お前にはできっこない
自分はまるで地上に舞い降りた神の贈り物だとでも言いたげな顔をして
堂々とうろついてる そんな訳ないだろ
4周年記念のプレゼントに服の1つも買ってくれないなんて
28インチのウィッグが欲しいの ブラジルの女の子みたいなやつ
私はあんたみたいなクソと一緒にいるべきじゃないの
本当は金持ちの偉い男が好みなのよ
あんたなんてなんの価値もない みんな知ってるわ あんたのお仲間もね
最悪よ 二度と電話してこないで
あんたにはわからないでしょうけど あんたはイカした女に手も足も出ないのよ
私には他の男がいるの あんたはもう用済み 一体どうなってるっていうの?
This dick ain’t free
You lookin’ at me like it ain’t a receipt like I never made ends meet
Eating your leftovers and raw meat
This dick ain’t free
Livin’ in captivity raised my cap salary
Celery, tellin’ me green is all I need
Evidently all I seen was spam and raw sardines
俺のイチモツは無料じゃないぜ
君は俺のことを領収書じゃないかのように見てくるけど 首が回ってないとでも思ってるんだろ
君の残飯や生肉を漁って食いつないでいるとでも
俺のチンコは無料じゃないのさ
自由って訳でもないけど 取り分は増えてる
セロリが教えてくれた 俺に必要なのはセロリみたいな緑色のアレ そう ドル紙幣なのさ
どう考えたって これまで俺が見てきたのはスパムと腐ったイワシ
This dick ain’t free, I mean, baby
You really think we could make a baby named Mercedes
Without a Mercedes Benz and twenty-four inch rims
Five percent tint, and air conditioning vents ? Hell fuckin’ naw
This dick ain’t free
I need forty acres and a mule, not a forty ounce and a pit bull, bullshit
Matador, matador, had the door knockin’, let ‘em in, who’s that ? Genital’s best friend
俺のチンコは無料じゃないんだ わかるだろ なあ
君はメルセデスって名前の子供が俺たちにはできるとマジで思ってるんだ
ベンツも買わず それどころか24インチのタイヤも
透過率5%の窓も 空調の送風孔もなしにだぜ イかれてる
俺のイチモツは無料じゃない
俺が欲しいのは40エーカーと一頭のラバなんだ 40オンス・ビールと犬っころじゃない ふざけやがって
闘牛士 闘牛士 誰かがドアをノックしてる 入れてやれよ どこのどいつだ?
ああ アソコの大親友じゃないか
This dick ain’t free
Pity the fool that made the pretty in you prosper
Titty juice and pussy lips kept me obnoxious
Kept me up watchin’ pornos in poverty, apology ? No
Watch you politic with people less fortune, like myself
Every dog has its day, now doggy style shall help
This dick ain’t free
Matter of fact, it need interest, matter of fact, it’s nine inches
Matter of fact, see our friendship based on business
Pension, more pension, you’re pinchin’ my percents
俺のイチモツは無料じゃないんだ
お前を可愛く仕立ててるだけの哀れなバカ野郎
おっぱいのジュースにアソコ まったく忌々しい
惨めな気持ちでポルノを見てるんだ 謝罪だって?あり得ないね
君が俺みたいに不運な人を手玉に取ってきたのを知ってるんだ
どんな犬にもそいつなりの1日ってのがあるのさ バックでハメれば少しは気が紛れるぜ
俺のチンコは無料じゃないぜ
実際 コイツには利息だってかかる なにせ9インチもあるんだからな
目を逸らすな 俺たちのビジネスで繋がった絆を見てみろよ
定期的に金をせびりにくる もっともっとって そうして無理やり俺にOKと言わせるんだ
It’s been relentless, fuck forgiveness, fuck your feelings
Fuck your sources, all distortion, if you fuck it’s more abortion
More divorce courts and portion
My check with less endorsement left me dormant
Dusted, doomed, disgusted, forced with
Fuck you think is in more shit ?
Porcelain pipes pressure, bust ‘em twice
Choice is devastated, decapitated the horseman
Oh America, you bad bitch, I picked cotton and made you rich
Now my dick ain’t free
血も涙もない 謝罪なんてクソ食らえ 君の気持ちなんて知ったことか
君の情報源なんてクソ同然 何もかも捻じ曲げられてるんだから ヤっても中絶する回数が増えるだけ
おまけに離婚絡みの裁判と賠償金も
怪しい出どころの金は俺を機能停止にさせるのさ
汚らしくて 呪われていて 忌々しくて でも使う他ないなんて
これ以上他に何かあるなんてクソみたいな考えをしてるのか?
磁器性のパイプを真っ二つにして使い物にならなくさせるのさ
何を選んでもおしまいさ 斬首刑にされる騎士と同じ
なあアメリカ この腐れビッチ 俺はお前を金持ちにするために綿を摘んでたんだぜ
俺のチンコは今はもう無料じゃないのさ
I’ma get my Uncle Sam to fuck you up
You ain’t no king
アンクル・サムに言いつけて お前を破滅させてやるわ
お前は王様でもなんでもないのよ
解説
①恋人との口論
さて、ここからは解説です。
ジャジーでヒリついたトラックと共に口論が繰り広げられるこの“For Free ?”、ラマーのラッパーとしてのテクニックがこの上なく発揮されています。言葉数の多いリリックを巧みなフロウで畳み掛ける点もそうですし、リリックの表現そのものにおいても。
最初に啖呵を切るのは恋人です。おそらくこの人物は、前曲”The Wseley’s Theory”で登場した、かつては恋い焦がれていたけども今はただセックスのパートナーに成り下がってしまった例の恋人と同一人物でしょうね。
彼女はラマーに対し、「お前は大した奴じゃない、私のためにプレゼントをくれない奴なんて」と捲したてます。彼女がラマーを愛していないことは明らかですね。彼の財産と名声だけが目当てなのが丸分かりです。「本当は金持ちの偉い男が好み」とまで言うわけですから。
②「イチモツ」=ラマーの成功
そこからラマーの反撃です。ここで面白いのが、何度も繰り返される「俺のイチモツは無料じゃないぜ」というフレーズ。史上最も「チンコ」という単語を記載した記事になってしまい申し訳ありませんが、ここにもしっかり意味があるんですよね。
男女の諍いという体裁の曲ですから、ことこの曲の中で「性別」というのは重要なメタファーになってくるはずなんですよ。そこで登場する男根、男性性の象徴。これは、ラマーの成功そのもの、彼が勝ち取ったものの比喩と理解すべきだと思っています。
「実際コイツには利息だってかかる なにせ9インチもあるんだからな」という部分がわかりやすいんですけど、ここにラマーの自尊心が見えてきますよね。「俺の誇らしい功績と達成をいいように弄んでくれるな、そんなヌルいもんじゃないぜ」ってな感じ。面白いダブル・ミーニングです。
で、そこからのラップの内容としては結構ナンセンスなリリックも多くて。というより、ライミング(押韻のことです)を意識したものが多いんですよね。「セロリ」だったり「闘牛士」だったり、字面だけならなかなかシュールです。
尤も「セロリ」に関しては”green”という表現を引き出す、俳句で言うところの枕詞のような効果もありますけどね。ここでの”green”は単に「緑色」ではなく、ドル紙幣のスラングなんですけど。ドル紙幣の裏側が緑色だからというのが由来らしいです。
③恋人=アメリカ、そして次曲への伏線
あと大事な部分として、この曲での反撃の対象は単に恋人だけではないという点。言ってしまえば、この恋人は「アメリカ」のメタファーでもあるんですよね。前曲で「アンクル・サム」がラマーからいいだけ財産を吸い上げる様を表現していましたが、この恋人はほぼほぼ「アンクル・サム」と同じものと捉えてよさそうです。
これは深読みでもなんでもなく、前曲に続いて「40エーカーと一頭のラバ」が登場している点や、最後に唐突にアメリカを口撃の対象として名指ししている部分から明らかです。このミクロとマクロのスムーズな推移、前回も指摘しましたけどラマーの素晴らしい才能だと思っています。
そうそう、この「40エーカーと一頭のラバ」、これは前回解説した黒人奴隷に関係するイディオムなんですけど、ここでの再登場にはもう1つ意味があって。
ここで紐付けて考えるべきは、最終盤のリリックです。「俺はお前(=アメリカ)を金持ちにするために綿を摘んでたんだぜ」。これ、当然黒人奴隷が従事させられていた綿花栽培に言及したものなんですが、アメリカによる搾取に対する口撃でもあり、次の曲を引き立たせる伏線でもあるんですよね。
おまけに、恋人は最後にこう吐き捨てる訳です。「お前は王様でもなんでもないのよ」。そして始まるのが、英雄的黒人奴隷クンタ・キンテをモチーフにした“King Kunta”なんですから。
まとめ
今回は”For Free ?” (Interlude)の全訳解説を敢行しました。
インタールードらしくかなり抽象的な楽曲ではありますが、この記事で少しでも理解を進めてもらえれば嬉しいです。そして次回は序盤のハイライトとなる名曲、”King Kunta”の解説をしていきますよ。どうぞお楽しみに。
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