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Home/山崎まさよし (1997)

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後追いの世代である私なんかからすると、「名前は知ってて有名な曲も知ってるからだいたいこんなアーティスト」みたいなバイアスがよくかかってしまうんですよね。その典型例がこの山崎まさよし。『One more time, One more chance』のイメージで聴いてみたら随分と面食らったのを覚えています。今回はその『One more time, One more chance』収録のアルバム『Home』のご紹介です。

きちんと聴くまで私が山崎まさよしに抱いていたイメージの話をもう少しすると、アコースティック・ギターが似合うシンガー・ソングライターみたいなものでした。バラードが上手くてしっとりとしたタイプのポップスをやっていると勝手に決めつけていたんですね。そういう一面があるのは事実ですし、『Home』にはアコースティック・バラードもいくつか収録されていますけど、この作品の性質ってそういうところではありません。

一言で言ってしまえば、根っからのR&Bアルバムなんですよね、コレ。それもかなりパーカッシヴでリズムの小気味よさを押し出した。心洗われるメロディを期待して再生すると、いきなり1曲目の『Fat Mama』で打ちのめされます。ファンキーなリズムが曲を引っ張っていきますし、ヴォーカルもリズムに乗っかった歯切れのいいスタイルです。この曲を聴くたびにブラック・アメリカンが路上で演奏している様子が脳裏に浮かんでくるんですけど、そういう楽しさとか自由さみたいなものを感じさせてくれます。

その黒いノリはアルバム全体のカラーを決定づけるには十分ですね。続く2曲目の『アドレナリン』もしっかりとファンキーですし、SMAPのカバーでも有名なシングル曲『セロリ』も本家はかなりグルーヴィーな仕上がりです。コレをアイドルの楽曲にしようというセンスもすごいと思いますね、なにせメロディのキャッチーさで勝負する世界にここまで楽曲全体のムードで聴かせるタイプの曲を持っていくんですから。

山崎まさよし / セロリ

ただ、それを成立させるのが山崎まさよしというアーティストの如才ないところで。メロディの完成度も凄まじいんですよ。だからJ-Pop的なアレンジにしても曲が負けないし、シンプルな楽曲を作らせても思わず唸ってしまう。実際『セロリ』の次に収録された『ベンジャミン』はほとんどアコースティック・ギターと歌だけの構成ですしね。ここでR&Bのテイストを一気に取り払っても決してアルバムの空気感がブレることはないんです。コレがそれこそ『セロリ』と『Fat Mama』の順番が逆なら上手くいかないんでしょうね。徐々にメロディにフォーカスしていく構成だからこそここでバラードが生きてくるように感じます。

この歌メロとブラックネスを巧妙に行き交う構成が面白い作品でもあるんですよ。その両方の性質があることにとても自覚的で、2つをコントラストをつけて描き分けているんですね。『セロリ』なんかでも顕著ですが、しっかり歌メロが目立つ曲でも彼の黒い感性って主張してくるんですよ。日本人的ではないというか。かと言って彼のルーツであるところのブルースや洋楽ロックとも違います。このバランス感覚が彼の音楽の魅力だと思います。それでいてそのバランスをいきなり崩すような挑発的なこともしてきますよ。しっとりとまとめた『ベンジャミン』に続く『スクリーミン ’97』を聴いてみていただきたいです。ここにきてインスト・ナンバーですからね。それも得意のアコースティック・ギターのざらついたサウンドを生かしたラフな質感の。

こういう飄々とした音楽性は通奏低音としてこの作品で感じられます。中盤以降も楽曲毎にその配分こそ違うものの、両者のエッセンスを感じられる楽曲が続きますからね。『コペルニクスの卵』なんて面白いですよ、サビでぐっとポップになりますけど、そこ以外のメロディや楽曲の持つ表情は極めてブラックです。曲順だけでなく、1つの楽曲という狭い世界の中でもこういうニクい技を見せてきます。

そこからはしばらく軽快なR&B風のナンバーが続きます。もうこの辺まで来ると彼に「繊細なシンガー・ソングライター」のイメージなんて持てません。さて次はどんな軽妙な楽曲が、と安心しきったタイミングで不意をついて始まるのが『One more time, One more chance』。間違いなく本作のハイライト、言うまでもなく大名曲ですけど、ここでもってくるというのが本当にずるい。確かにこう聴いてみればブラック・ミュージックの影響を感じないではないですが、それでもこの曲はJ-Popの王道、メロディでなぎ倒していく強さのある楽曲ですからね。

山崎まさよし / One more time,One more chance

ヒット・シングルとして既に認知されている楽曲ですし、この曲をどう生かすかというのは本作の評価に直結する問題ですよね。藤井風のレビューの時にも書いた気がしますが、シングル級の強い曲はアルバムにとって諸刃の剣ですから。そこへいくと、気配を消して、意外性とともにこの曲に導くというのは本当に素晴らしい采配です。それによって他の楽曲や、本作の基本的なスタイルであるブラック・ミュージックもさらに引き立つというのもいい。どちらの魅力も損なうことなく、どころかより輝いていますから。

『One more time, One more chance』を受けてのナンバー、『ヤサ男の夢』も実にニヒルです。ストリングスでたっぷりと情感を煽った直後に、山崎の号令から始まるドラム・ロールで強引に余韻を断ち切ってきます。あんなにいい曲なのに、決してそこに依存しないんですよね。作品も終盤ですから、そのままフィナーレに突入してもよさそうなものですけど、ここで一気に空気感を元のリズミカルなR&Bに引き戻す訳です。クライマックスの直前にちょっとしたブレイクを挟むというのは結構よくある手法だとは思いますが、ここまで振り切ってしまうというのはニヤリとさせられます。

無理やりケチをつけるならば、この展開があまりに鮮やかすぎるあまり、最終曲でありタイトル・ナンバーである『Home』の印象が薄らいでしまうというところでしょうかね。すごくいい曲ではありんですけれど、打ちのめされた直後としてはやや弱いと言えなくもないかと思います。大団円を演出するアウトロをフルで生かすならば、もうワンクッションあってもよかったのかなと。とはいえ、聴き終えた後の爽やかさ、それこそ飄々としたこの作品らしいサラリとした気分はそれはそれでいいものなのですが。

一応ファン・サイトではなくあくまでレビューのブログなので最後にそれらしい苦言を呈してはみましたが、それって本当に重箱の隅をつっつくような行為です。だからこの作品は駄作だ、なんていう気はさらさらありませんし、是非とも聴いていただきたい大好きなアルバムであることに変わりはありません。

山崎まさよしって本当に器用なアーティストだと思うんですよね。楽器はなんでも演奏できるマルチ・プレイヤーですし、彼のカバー・アルバムもオリジナルへの愛に溢れていて秀逸です。そのなんでもできてしまう彼の表現の度量の深さみたいなものがよく表れた1枚だと思いますし、ここまで長々と書いてきた小難しい話を抜きにして、単に小気味いい名盤として、みなさんにオススメしたい作品です。

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