さあ、今週もやっていきましょう。「オススメ新譜5選」のコーナーです。バックナンバーはこちらから。
音楽ネタとしては色々ありましたね。フジロックのラインナップ発表にグラミー賞に。どちらも正直私の音楽的なアンテナに引っかかる話題ではないし(フジロックはいつか行ってみたいですけど)、グラミーなんてもうレコ大に毛が生えたくらいの権威しかないと思っているので……
そんなことより新譜ですよ。いよいよ4月、激動の1stクオーターも明けた訳ですが、音楽シーンは絶えず活発に動き続けていますから。早速チェックしていきましょう。それでは参ります。
“Cure The Jones”/Mamas Gun
流石に私の音楽体験からいって、これをスルーするのはやってないですね。UKソウルのバンド、Mamas Gunの“Cure The Jones”です。
一旦アルバムの1曲目である↑の楽曲だけでも聴いてほしいんですけど、これ2022年の楽曲ですからね?モータウンかハイ・レーベルかという、この洗練され尽くされたポップ・ソウル。ここまでツボを抑えた、スウィートでスムーズなソウルを現代で聴くことができるとは思っていませんでした。
ヴォーカルもいいんですよ。ファルセットを多用した如何にも甘い歌声。アル・グリーンを彷彿とさせられる代物なんですが、ブラックネスが希薄というのが面白い。メンバーが全員白人なので、当然アフリカン・アメリカン的な感性を先天的に持てていないが故ですね。
ただ、それが見事に作用していて。そもそもモータウンだって、黒人音楽たるソウルを白人層にリーチすべく甘く仕立てたサウンドで人気を博した訳で。真逆ですけど、現象としては本作もほぼ同質。黒人から白人への接近ではなく、白人の側から可能な限りブラック・ミュージックに接近しているのが本作な訳ですから。
これはね、新譜と思わずソウル好きにはもれなく聴いてほしい1枚です。「なんて革新的なんだ!」とはならない作品なので、きっと各メディアの年間ベストには残らない気もするんですけど……この作品を悪く言うことは、少なくともモータウンに慣れ親しんでいる私にはできっこないですね。
“日の当たる場所にきてよ”/宇宙ネコ子
しれっと邦楽のアルバムを。宇宙ネコ子の“日の当たる場所にきてよ”。ただ、これリリース1月なんですよね……サブスクにきたのが3月末のことなので、無理やり先週の新譜ってことにしていいですか?ダメですかそうですか。
相対性理論のフォロワー的な佇まいのアルバムなんですよね。可憐でささやくような歌声に、幻想的でメランコリックなサウンドが世界観を決定づける。オルタナ好きだったら文句なく好きになれる作品です。
絶対に意図的なんですけど、ヴォーカルがかなり控えめにミックスされているのが効果的に作用していますね。シューゲイズ的なサウンドヴィジョンが、まるでどんよりとした曇り空のような印象を与えるんですけど、そこに埋没しかねない儚さを表現しています。
ただ、作品の随所で聴くことのできるウィンドチャイムが象徴的なんですけど、曇天から差し込む一筋の陽光の如き救いと清浄感を演出している瞬間もあって。それはギター・サウンドでもそうですね。あくまで主体は物憂げなんですけど、そこにしっかり爽やかさを感じさせるサウンドなんですよ。
耳の早いリスナーの方ならとっくにご存知かもしれないですけど、私にとっては「先週聴いた新譜」なので、半分裏技的に紹介させてもらいました。今後は国内外問わずシューゲイズのシーンには注目しないといけないですね……去年のParannoulだって見落としていたので。
“Eyes Of Oblivion”/Te Hellacopters
スウェーデンのハード・ロック・バンド、The Hellacoptersの復活作“Eyes Of Oblivion”です。
いやあ、「頭の悪い名作」ですよね……無茶苦茶褒めてますよ。ハード・ロックの痛快さをコレでもかと押し出しているって意味でね。この骨太なハード・ロックとロックンロールの味わい、そしてあっけらかんとしたキャッチーさの共存のバランスが円熟味を感じさせます。
そう、キャッチーなんですよ。リード・トラックでもある“So Sorry I Could Die”なんて、ピアノやコーラスをフィーチャーして、すごくゴージャスでわかりやすいサウンド・メイキングですしね。その上でコレぞハード・ロックという男臭いヴォーカルとドレゲンのブルース・フィーリングが効いた泣きのギター・ソロが乗っかってくるのが堪んない。
私がそこまでヘア・メタルにのめり込めないのは、男臭さが足りないからなんですよね。あの華々しさが悪いって訳じゃないんですけど、ハード・ロックはやっぱりマッチョであってほしいので。そこへいくと本作の筋肉質っぷりはもう強烈で。
新譜に限らずハード・ロック自体随分久しぶりに聴きましたけど、それがこの作品でよかったですよ、ホントに。ここまで真っ直ぐなハード・ロック聴かされちゃったら、かつてガンズに夢中だったピエール少年の気持ちを取り戻せそうです。そういう意味で、ノスタルジックなアルバムでもありましたね。
“Avatars Of Love”/Sondre Lerche
今回は北欧からの選出が多いですね、こちらはノルウェー出身のSSW、Sondre Lercheの“Avatars Of Love”です。
何度かこのシリーズでも主張している「コンパクトなアルバムって聴きやすくていいよね」という価値観に喧嘩を売るかのような1時間半というフル・ボリュームの作品ですけど、あまりに美しくて幻想的で、うっかりツルッと聴いてしまいました。
現代的なアプローチも勿論ありますし、現代ポップスらしくコラボレートも多い作品ですけど、それ以上に作品のトータリティとしての荘厳さと優雅な叙情性には思わず息を飲みます。シンフォ系プログレほど大仰でもないんですけど、この透き通った世界観には共通項を見出してしまうくらい。
オーケストレーションの効果も面白いし、長大なアルバムであることに自覚的だからこその飽きさせない手心と物語のように自然に奥行きを生んでいく構築の妙はお見事です。それにメロディがどれもいいんですよね……やはり日本人としては、歌心の意識はどうしたってありますから。
この作品を聴いてみるのであれば、長いアルバムだからと身構えることなく、このアルバムが生み出す広大なドラマに身を委ねるように楽しむことをオススメしたいですね。それが許される強度のある作品だと思うので。
“Leave The Light On”/Pillow Queens
2020年デビューの新人バンド、Pillow Queensの2nd“Leave The Light On”です。
いわゆるダウナーなロックの一群に属する作品だとは思うんですよ。ビートの感覚やサウンド処理は現代的だし、ありがちと言えばありがちというか。個人的にこういうドラムのサウンドは得意ではないんですけど。
ただ、ギターがしっかり活躍してる作品なのが嬉しいところで。ギターの存在感が日に日に減退する現行ロック・シーンにあって、サウンドスケープの構築の軸にギターがあるとかえって新鮮に聴こえてきます。エフェクティヴなサウンドでもなく、結構無骨な質感なのもまたいいじゃないですか。
その上でSarah Corcoranのちょっと毒っ気のあるヴォーカルが実にセクシーで。こういうカリスマ性のある歌声の存在感とギターで聴かせるロック、すごくクラシカルな響きがあります。さっきも言ったようにあくまで全体としては今時のサウンドではあるんですけどね。
インディー・ロックではあるんですけど、まっすぐなメロディにもそこまで捻くれた要素は感じなくて。楽曲によってはシネイド・オコナーのようなバランス感覚も感じられて、それでいて適度にエモーショナル。大はしゃぎする大名盤ではないにしろ、ロック・アルバムとしてちょうどいい1枚でしたね。
まとめ
最近何かと遅刻しがちなこの企画ですけど、今週はなんとか間に合いました。その分他の投稿を放置していますけど、どうか長い目でお付き合いください。
ロック・ファンの方々からすると、レッチリの新譜が入ってないことに違和感を持つかもしれませんね。こんだけロック好きを騙っているのに。
ただ、はっきり言ってレッチリそこまで得意じゃないんですよ……とんでもない発言しちゃいましたね。そりゃカッコいいとは思いますし、新譜もよかったんですけどね。私の心に引っかかるアーティストでは、残念ながらありません。
さて、明日のリリースも楽しみですね。尤も、私の心は山下達郎の待望の新譜に持っていかれてしまっていますが。しばらく先の話ですし、タツローのことなんてうっかり忘れちゃうくらいの名作に出会えることを期待したいと思います。それではまた次回。
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