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ピエールの選ぶ「2022年オススメ新譜5選」Vol.13

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木曜日ということで、恒例の「オススメ新譜5選」やっていきましょうか。バックナンバーは↓からどうぞ。

先週も先週とて、いいアルバムが多かったですね。特にロック・ファン的にはかなり盛り上がったリリース内容だったんじゃないでしょうか。ジャック・ホワイトのソロ作品だったり、あるいはリンダ・リンダズだったり、注目作品が揃っていましたから。

ただまあ、その辺りの情勢はうまいことスルーしつつ。あくまで私がチェックした作品の中で、個人的なフェイバリットを5枚紹介していきたいと思います。それでは早速参りましょうか。

“Chloë And The Next 20th Century”/Father John Misty

Father John Misty – Kiss Me (I Loved You) [Official Audio]

個人的ベストは有無を言わせずこの1枚!Fleet Foxesのドラマーとしても活躍していたSSW、Father John MistyことJ. Tillman“Chloë and the Next 20th Century”です。

一言で表現するならば、「ディズニー映画のサウンドトラック」。いや本当に。それもモノクロ時代ですね。それくらいクラシカルで、ロマンチックで、普遍的な優しさのある作品。クラシカルといっても、それは最早戦前のポピュラー音楽の領域ですよ。

この作品の魅力、1つにはサウンドです。バロック・ポップ的に弦楽や管なんかをフィーチャーしていて、それでいてジャズのような方法論も垣間見える。恐ろしく丁寧なサウンドスケープなんですよね。その丁寧さってロックの範疇というよりはやっぱり映画のスコア的で。

で、そういうスタンダードの香りが溢れる世界観の中で紡がれるメロディがまた秀逸です。こちらもすごく古典的で、モノクロームな色彩感覚。それでいて極めてスウィートでね。これ嫌いな人は音楽ファンにはいないんじゃないかな。

これは年間ベスト送り確定の1枚ですね。まあこれを「新譜」として扱うのはどうなんだってくらいのクラシカルぶりなんですけど、それを2022年に聴けていることがとても嬉しい。このブログにお越しの方ってクラシカルな音楽がお好きでしょうから、そういう人は絶対に聴いといた方がいいですよ。断言します。

“Whatever The Weather”/Whatever The Weather

25°C

エレクトロ系はぶっちゃけ苦手なジャンルなんですけど、これはドストライクでしたね。Loraine Jamesのソロ・プロジェクト、Whatever The Weatherのセルフ・タイトル作、“Whatever The Weather”です。

一聴してわかるこのアンビエントっぷり、とにかく癒されます。サウンドは徹底して透明で、アルバム・ジャケットの雄大で神秘的な自然美を打ち出していますね。こういう作品って明確なメロディがない以上サウンド・プロダクションの担う役割が極めて大きいんですけど、いやはやお見事です。

楽曲のタイトルには摂氏温度の数値が冠せられているんですけど(イギリスのアーティストなので)、その数値が楽曲の温度感を的確に表現しているのが素晴らしい。2曲目の“0°C”が放つ無情なまでの冷徹さなんて、序曲である“25°C”を経ているからこそ実に鮮烈で。

そしてビートもいいんですよね。エレクトロには詳しくないんですけど、IDM的な理解でいいんでしょうか。理知的で変則的で、これが本作に単なる環境音楽に終始させない、アルバム作品としてのメリハリと必然性を与えています。聴いていて一切ダレないですからね。

たまには食わず嫌いせずに聴いてみるもんですね、これを見落としていたと思うとゾッとしません。私と同じく「電子音楽はちょっと……」という方にも自信をもってオススメできる1枚ですね。

“Wet Leg”/Wet Leg

Wet Leg – Chaise Longue (Official Video)

先週のリリースで一般的に言うと一番の話題作はこれになるんですかね。UKインディーの大本命との注目を集める2人組、Wet Legのデビュー・アルバム“Wet Leg”です。

注目度の高さの通り、インディー好き、UKロックのオルタナティヴな側面が好きって人には漏れなくぶっ刺さるアルバムですよね。このユルイけどエッジの立ったインディー・ロック、中毒性が結構とんでもないですから。

UKインディーの老舗、ドミノ・レコードからのリリースなんですけど、やっぱりこのアルバムは00’sのインディー・ロックの文脈で語るべき作品ですかね。サウンドもローファイですし、この肩肘張ってないダウナーなカッコよさってのは間違いなくザ・ストロークス由来です。

そう、最初にこのアルバム聴いて「独創的だけど、なんか懐かしいな」という相反する感覚に襲われたんですよね。それって思えばザ・ストロークスの1stでも体験できる類の矛盾だった訳で。それを2022年に、リアルタイムで体験できたのはすごく嬉しかったです。

その上で女性2人組ということで、汗臭さがより一層感じられない。すごくインドアなインディー・ロックでもあります。そこが現代的だと思うし、この作品が全英チャートで好調な滑り出しというのがいいじゃないですか。やっぱり皆こういうロック好きでしょ?だってカッコイイですから。

“You Belong There”/Daniel Rossen

Daniel Rossen – Shadow in the Frame (Official Audio)

音楽ファン御用達Rate Your Musicで好評の1枚ですね。正直あのサイトの集合意識にそこまでの信頼度はないんですけど、実際に聴いた結果お気に入りだったので紹介します。USインディーの雄、Grizzly Bearの頭脳、Daniel Rossenのソロ・アルバム“You Belong There”です。

それこそGrizzly Bearの音楽性と直結する、侘しくもオルタナティヴなフォーク・ロック。それでいて本作は重厚ですよね、プログレッシヴ的と言ってもいいでしょうけど。耽美的でどっぷりとした闇を描き切る表現力は流石のお点前です。

アルバムを再生して耳に飛び込んでくるアコースティック・ギターの爪弾き、そのサウンドの質感があっという間にこの作品のカラーを決定づけてしまうんですけど、そこから一切隙を見せずその重厚感を持続するのが本作の素晴らしさですね。言ってしまえば、実に職人肌な作品。

本作の演奏は大部分をRossen自身が手がけているようで、それがパーソナルなムードにも貢献しているのかなと。サウンドだけを切り取れば勇壮な印象だって抱き得るはずなんですけど、どうしても全体像としてはダークで個人的ですから。ここにはRossenの艶やかな低音域のヴォーカルも大きな意味を持っていると思いますけどね。

侘しさ、ダークさを打ち出したロックの側からのフォーク的作品、言ってしまえばインディー版『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』なんですよこのアルバムって。そりゃいいアルバムに決まってるんですよね。インディーの方向に関心がない方でも、70’sのSSW、それも内省的なアーティストがお好きなら一聴の価値ありです。

“Aethiopes”/Billy Woods

Asylum

ヒップホップからはこの作品ですかね。東海岸のラッパー、Billy Woods“Aethiopes”(なんて読むんですかねコレ)です。

通底してシリアスでダークなラップ・アルバムですね。サウンドの基盤にはジャズの方法論があって、それでいてアブストラクトな実験性もあるという、杳として知れないミステリアスさが主体となっています。

ジャズを下敷きにしているとは言いましたけど、前提として相当にアグレッシヴなトラックなんですよね。フリー・ジャズ的というか、アンサンブルの有機性も実に生々しくてリアリティがありますから。ベースのうねり方なんて禍々しさすら感じる代物だし、サックスやピアノがもたらす効果もやはり不気味で。

そういう秀逸なトラックを従えてのWoodsのラップ、コレも当然素晴らしい。この作品の世界観、濃密な闇に溶け込むような得体の知れなさを感じられますね。アルバムとしての情報量自体は結構多い作品なんですけど、すべてのベクトルが理知的に揃えられているからこそ、そこに聴きにくさや難解さはそれほど感じないのも流石の采配だと思います。

ジャズは刺激が足りない……というヒップホップ好きにも、ヒップホップの打ち込みサウンドがちょっと……というジャズ・ファンにも、問題なくオススメできる作品ですよ。それくらいヒップホップとしてよくできてるし、サウンドの感覚はしっかりジャズですからね。

まとめ

さて、今回のセレクトはこんな感じで。この5枚は現状だとどれも年間ベストに入れたいくらい、かなりのお気に入りですね。

……で、冒頭で名前を挙げたジャック・ホワイトもリンダ・リンダズも何事もなかったかのようにスルーしている訳ですけど。もちろん聴いたし嫌いじゃないですけど、ちょっと相手が悪かったですね。別の週だと普通に紹介できていたと思うんですが。

先週もGrizzly Bearのメンバーのソロ作品がありましたけど、明日は明日でThe War On DrugsやBig Thiefのメンバーのソロ作品が控えています。どれもインディー界隈を盛り上げているバンドですからね。

この辺りを注目しつつ、明日のリリースは楽しみたいと思います。それではまた次回。

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