第7位 “News Of The World” (1977)
ここからランキングは折り返しなんですけど、作品の内容もこっから先はどこに出しても恥ずかしくない「名盤」になってきます。これまではクイーン・ファン以外は正直無理に聴かなくとも……くらいの作品だったりもするので。お前のことだぞ『フラッシュ・ゴードン』。
で、この『世界に捧ぐ』なんですが。「ロンドン・パンクへのクイーンからの回答」という評価がされがちですし、当時のUKロックの趨勢を思えば当然そういう意図はあるんでしょうけど、実は本作の本質は「クイーンの世界進出の第一歩」だと思っています。
ロック史上最高級のアンセム、『ウィ・ウィル・ロック・ユー』と『伝説のチャンピオン』で続けざまに開幕するのも、パンクを意識したにしてはクイーンらしくない回答の仕方でしょ?もっとゴテゴテした、「ダイナソー・ロック」らしい挑発ができるバンドですから。それよりは、アメリカ市場に意識が向いたが故のストレートさと理解する方が自然な気がするんです。
伝家の宝刀である幾重にも重ねたコーラスは『永遠の翼』や『マイ・メランコリー・ブルース』にはないし、『ゲット・ダウン・メイク・ラヴ』ではニュー・ウェイヴ先取りかの如くシンセサイザー(に極限まで似せたギター・サウンド)の乱打ですから。これまでのクイーンがしなかったことをここぞとばかりにやる、反骨精神に溢れたサウンドはむしろパンク的……というのは乱暴ですかね?
それに、とにかく曲がいい。『華麗なるレース』でも見せた、個々の楽曲のパンチで勝負というスタイルがよりクッキリしています。中盤でちょっとダレるかな……というのも正直なところですけど、他のところでハイ・スコアを叩き出して挽回する、強引な名作という感じでしょうかね。
第6位 “A Day At The Race” (1976)
ランキング作る前はTOP5入り確実くらいに思っていましたが……やむなくこの位置です。傑作『オペラ座の夜』の対となるアルバム、『華麗なるレース』が第6位。
『オペラ座』がアルバムとしてのトータリティで圧倒する作品ならば、こっちは個々の楽曲のパワーで勝負をかけているアルバムなのかなと思います。開幕と閉幕にギター・オーケストレーションのテーマが挿入されているので、総体としてのまとまりも意識しているんでしょうけど、これはちょっとやっつけ仕事感が否めませんから。
ただその分、楽曲はとにかく見事で。作曲家としてのフレディ・マーキュリーに一番脂が乗っている作品だと思います。『愛にすべてを』でゴスペルを、『ザ・ミリオネア・ワルツ』でワルツを、『懐かしのラヴァー・ボーイ』でミュージック・ホールを……ともう破茶滅茶なセンスを炸裂させていますよ。
負けじとメイも『手をとりあって』筆頭にいい曲を提供していますし、ディーキーも目立ちこそしないものの可愛らしいポップスを変わらず書いている。テイラーも『まどろみ』で一皮向けた感があってね。「全員バケモノ級のソングライター」というクイーン最大の強みが発揮された最初の作品と言ってもいいくらいです。
『クイーンII』ではコンセプチュアルな作風に挑みつつ、わずか2年で真逆の方向に進んだというのもクイーンらしい。で、楽曲のパワーだけで無理やり名盤にできちゃうバンドなんですよクイーンって。裏技めいた手法ですが、この作品が名盤であることはなんと言おうと事実ですからね。
第5位 “A Kind Of Magic” (1986)
この作品を見落としてはクイーン・ファンは名乗れませんね、「ライヴ・エイド」での復活劇の後にリリースされた『カインド・オブ・マジック』が大健闘のTOP5入りです。
この作品、とにかく曲の平均水準が高いんです。安定してハード・ロックとバラードの両面で作曲を牽引するメイに、ヒット・メイカーとして最早中核を担いつつあるテイラーとディーコンの活躍も目立ち、マーキュリーも傑作『プリンシス・オブ・ジ・ユニヴァース』で貢献していますから。
作風としてはそれまでの堅実なポップ・ロックの延長線上ではあるんですが、初期クイーンが持っていたある種の格調高さが帰ってきている印象です。すごくパワフルで、スケールが大きくてね。ロック・チューンでは『ワン・ヴィジョン』、バラードでは『リヴ・フォーエヴァー』といった具合ですから。
このスケール感を支えているのが、フレディ・マーキュリーの歌唱です。歌声だけで評価するならクイーンの作品では間違いなくキャリア・ハイですね。歌唱力や表現力はそれまでも最高峰なんですけど、ファルセットを抑えて振り絞るように高音域をぶつけてくる、この生々しさは天晴です。『ギミ・ザ・プライズ』からの3連発なんてとんでもないボルテージですから。
思うに、「ライヴ・エイド」で獲得した「スタジアム・ロックの帝王」というキャラクターをスタジオ録音に持ち込んだ成果じゃないかと。楽曲のパワフルさも、歌声もね。いきなりそれを取り入れて高いレベルで成立させるというのが流石なんですけど。初期の傑作と並び称されるべき、中期クイーンの集大成こそがこの作品です。
第4位 “Sheer Heart Attack” (1974)
順当に高順位という感じですね。3rdアルバム、『シアー・ハート・アタック』がTOP3入りを惜しくも逃す格好となりました。
初期2作ってかなりハード・ロック的なアプローチの強いアルバムだったんですが、ここでクイーンのポップスとしての魅力がグッと増した印象ですね。スマッシュ・ヒットを記録した『キラー・クイーン』に象徴的ですが、煌びやかでトゥー・マッチなのにキャッチーという摩訶不思議な音楽なんです。
アルバムの展開として面白いのは、前作『クイーンII』のドラマティックな組曲仕立てを継承するA面ラストのメドレーでしょうか。『フリック・オブ・ザ・リスト』の禍々しさから『谷間のゆり』の嫋やかさまで、その振れ幅というのが流石です。
もっとも、当然のようにハード・ロックとしても白眉で。開幕の『ブライトン・ロック』で聴けるブライアン・メイのギター・ソロなんて、オール・タイムで見ても屈指の名演ですからね。それに『ストーン・コールド・クレイジー』なんて、ハード・ロックを通り越してスラッシュ・メタル的ですらあります。
まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのようなバラエティ性、その中で通奏低音として鳴り響くゴージャスなクイーン・スタイル。最早ロックの枠に収まらないクイーンという総合芸術が成立したのって、実は本作からな気もしているんですよ。
第3位 “Queen II” (1974)
こっちを1位にする人も相当数いるでしょうね、こと日本ならば。あのアクセル・ローズが棺桶に入れろとまで言った名盤、『クイーンII』です。
これもしかしたら怒られるかもしれませんが、私にとってこのアルバムってプログレなんですよ。バンドでいうならイエスの緻密な叙情性にジェネシスのシアトリカルな気品をミックスした印象で。それはA面とB面をそれぞれメイとマーキュリーの楽曲のみで構成するという、コンセプチュアルなスタイルにも出ています。(厳密にはA面にはテイラーの曲も収録されていますけどね)
1stの時にまだマーキュリーの作曲スタイルが発展途上という話をしましたが、ここへきて覚醒していますね。B面、一般に「サイド・ブラック」とされるかの展開はもう圧巻です。エキセントリックなハード・ロックで開幕し、玉虫色の煌びやかな小品になだれ込み、上品でドラマチックなピアノ・バラードで一息ついたかと思えば大曲『ブラック・クイーン』で容赦なく蹂躙する。いやあ素晴らしい。
で、この「サイド・ブラック」ばかり注目されがちですけど、メイがまとめ上げたA面、「サイド・ホワイト」も実に秀逸です。よりマイルドで耽美的なハード・ロックという感じでしょうか。単にギタリストとしてでなく、コンポーザーとしても彼が非凡なのがよくわかる名曲群です。
白と黒、この2つのコントラストが楽しめるのも本作の素晴らしさですよね。これは是非レコードで聴きたいアルバムの1つだと思います。「サイド・ホワイト」でうっとりし、レコードを裏返して再び針を落とす。すると聴こえてくる禍々しい逆回転のサウンド……1970年代ロックの美学そのものですよ。
第2位 “A Night At The Opera” (1975)
『II』が1位じゃないならこっちだろ、そう予想された多くの読者の方を裏切る形となりました。一般に「クイーンの最高傑作」とされる『オペラ座の夜』が第2位。
初期クイーンの集大成こそがこの作品ですよね。ハード・ロック、プログレッシヴ・ロック、グラム・ロックという当時のブリティッシュ・ロックの3大ジャンルを全て盛り込んだばかりか、そこにボードビルやカントリー、オペラまでを導入した途方もないバラエティ性はもう脱帽です。
『ボヘミアン・ラプソディ』ばかりが語られがちですけど、本作のハイライトってむしろA面だと思っていて。『うつろな日曜日』から『アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー』、『’39』、そして『マイ・ベスト・フレンド』とメンバーそれぞれが個性を発揮した名曲を連発する流れなんて、『アビー・ロード』のB面のような流麗なドラマ性を感じます。
こういう楽しげな様相を呈しておきながら、B面では『預言者の歌』と『ラヴ・オブ・マイ・ライフ』という荘厳な楽曲でしっかり風格を示すのもニクいところで。そして、その一大スペクタクルをまとめ上げる存在として、『ボヘミアン・ラプソディ』が十全に機能しているんです。
アルバムとしてとにかく隙がない、気の抜けるような小品もいくつかは収録されているものの、それすら意図的なムラであり必然性が存在していますからね。クイーンってとにかくクレバーなバンドですけど、そのクレバーさが惜しみなく発揮されたエンターテイメント・ロックの大名盤。これぞクイーンです。
第1位 “Innuendo” (1991)
『II』と『オペラ座』を抑えての第1位、私にとって最愛のクイーン作品はこちら!『イニュエンドウ』です。
フレディ・マーキュリー生前最後にリリースされたアルバムなんですが、もう天晴れな幕引きです。1970年代の所謂「初期クイーン」の仰々しさや高慢なスケールが還ってきただけでなく、そこに1980年代の手堅いポップスの経験値が乗っかっている。つまり、音楽的に「クイーンの総決算」なんです。
表題曲なんて素晴らしいですからね。ツェッペリンの傑作『カシミール』を彷彿とさせる勇壮で神秘的なスケールに、朗々としつつも超然としたマーキュリーの歌唱が乗っかります。しかもそこから『ボヘミアン・ラプソディ』的に転々とする世界観。多くのロック・ファンが望んでいたであろう、「UKロックの真打、クイーン」の凱旋ですよ。
でも、やっぱりどうしたって悲痛なアルバムなんですよね。テイラーの傑作バラード『輝ける日々』やメイがマーキュリーの遺志を代弁した『ショウ・マスト・ゴー・オン』といったハイライトにも、マーキュリーの喪失を受け入れたくないというメンバーの叫びがうかがえます。1980年代クイーンを牽引したヒット・メイカーのディーキーが1曲も書いていないのも示唆的でね……
その中にあって、当事者であり満身創痍の中制作に挑んだマーキュリーの歌声、ただそれだけがポジティヴというのが最早奇跡的で。「生への歓喜」といっては穿った見方が過ぎますが、なんの悔悟もない、晴れ晴れとした絶唱の数々。生粋のエンターテイナーとしてこれ以上ないパフォーマンスです。
あまり音楽を評価する中で、制作背景やバンドのレガシーみたいな部分は考慮したくないんですけど、本作は「フレディ・マーキュリーの死」が重要なモチーフでもあり、それを超越してキャリアを無理やりまとめ上げたバンドの入魂の一作ですから。聴くたびに打ちのめされる、恐るべき遺作です。
まとめ
いやあ、久しぶりの全アルバム・ランキングでしたがお楽しみいただけたでしょうか?何度か本編でも触れましたが、80’sの作品への評価でかなり反感を買いそうな気もしてますが、クイーンのファンとして正直にランキングをつけた結果ですので悪しからず。
前にこの記事でも触れたんですけど、クイーンに対する評価って本当にまだまだ未開拓だと思っていて。それでいて、日本でのクイーン人気って、言ってしまえばアイドル的な人気でもあって、アーティストとしてちゃんと評価されているかというとぶっちゃけ怪しいとも思っていて。
ここのところ、このブログでしっかり考察していく必要があるのかなと。その手始めに、あくまで音楽的にクイーンを解剖するためのランキング企画でもあるんですけどね。
で、せっかく全曲レビューなんてものをやった訳ですから、これだけで終わらせるのはちょっともったいないなと。続いては、クイーン名曲ランキング、投稿しますよ。これもこれで荒れそうですが、楽しみにしていただけると嬉しいです。それではまた次回。
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