Twitterで呆れるほどマイペースに更新していた#クイーン全曲レビューという企画を先日ようやく完遂しまして。
全曲レビューという試みはザ・ビートルズ以来2回目なんですが(そっちはこのリンクからどうぞ)、やたら面倒なだけあってすごく楽しいんですよ。それぞれの曲を140字の制約の中で表現するという、自分の色んな能力が試されている感もあって。ほら、このブログ長々と語りがちですから。
で、やるならこのタイミングしかないだろうということで。クイーン全アルバムランキング、参ります。
選外 “Made In Heaven” (1995)
ごめんなさい、全アルバムランキングなんて言っておきながら選外のアルバムがあるんです。
それが1995年に発表された『メイド・イン・ヘヴン』。
選外の理由はなんとなく察してきただけるとは思うんですが、このアルバムはフレディ・マーキュリーの死後発表された唯一の作品なんです。(クイーン+ポール・ロジャース名義の『コスモス・ロック』を除く。あれは色んな意味で「クイーン」ではないので……)
当然クイーンのアルバムではありますし、『ボーン・トゥ・ラヴ・ユー』筆頭にいい曲もあるんですけど、私にとってのクイーンはフレディ・マーキュリー、ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、ジョン・ディーコンの4人がいて初めて成立するバンドなんです。
本作を「クイーンのアルバム」の中で語ることは、私にはどうしても難しい。面倒臭いこと言ってるのは百も承知なんですが、ごめんなさい、今回はランキングの対象外とさせてください。
第14位 “Flash Gordon” (1980)
さて、気を取り直してランキングを開始しましょう。栄えある(?)最下位は『フラッシュ・ゴードン』です。
いや、流石にこれ最下位は皆さん納得だと思うんです。ほとんど「ブライアン・メイのひとりでできるかな?」状態ですからね。
『フラッシュのテーマ』と『ザ・ヒーロー』は確かにカッコイイ、クイーンらしい突き抜けたロック・チューンなんですけど、他が劇伴曲ですから。
ザ・ビートルズでいうところの『イエロー・サブマリン』的な、そもそもクイーンの傑作群の中で語ること自体不憫に思えてくる、かなり特殊な作品なんですよね。妥当な最下位ということで。
第13位 “The Game” (1980)
これはかなり怒られそうですね、『フラッシュ・ゴードン』と同年リリース、クイーンがアメリカ進出を果たした『ザ・ゲーム』がブービー賞です。
この順位の時点で怒られそうなんですけど、もっと怒られそうなこと言っていいですか?本作収録のヒット・シングル、『愛という名の欲望』と『地獄へ道づれ』、どっちもそんなに好きじゃないんです……うひゃあ殺されそう。
まあそりゃヒットするよね、っていう秀逸な楽曲なんですけど、クイーンでロカビリーとファンクを聴きたい訳ではないというか。アルバムの中でもこの2曲ってかなりまとまりを破壊している気がしちゃいます。なまじ曲としてのプレゼンスが強い分余計にね。
ラスト2曲『スウィート・シスター』と『セイヴ・ミー』は感涙必至の名バラードなんですけど、そっちの方向でパワフルにアメリカナイズドしてほしかったなぁと思うんですよね……何も全力でアメリカ・チャートに染まらんでも。
その「やるからには徹底的に」ってのはクイーンの基本姿勢なので愛おしさはあるんですが、音楽作品としての愛着で言うとかなり低くなってしまいます。リアルタイムでこの作品に触れた方とかなり対立しちゃいそうな意見ですが、あくまで「独断と偏見」によるランキングなのでどうかご容赦を。
第12位 “The Works” (1984)
続いては1984年の『ザ・ワークス』。
かなり手堅い印象というか、ニュー・ウェイヴ通過後のポップ・ロックにクイーンも参入した作品だと思っています。
さあ、ここらでもう一回怒られる発言しときましょう。本作収録の大ヒット曲『RADIO GA GA』、これも私そんなに好きじゃないです。ホントにクイーンのファンなんですかね私。
さっきの2曲にも言えるんですけど、ライヴ・ヴァージョンは大好きなんです。フレディ・マーキュリーのタフなライヴ・パフォーマンスで一気にエンタメ化して楽しめちゃうんですけどね……アルバムの中で聴くと強引に「ニュー・ウェイヴです僕ら」感がしちゃう。ごめんよロジャー。
手堅いって言いましたけど、流石にいい楽曲は並んでるんですよね。『永遠の誓い』や『マン・オン・ザ・プラウル』なんてかなりフェイバリット。でも作品としては小さくまとまり過ぎだし、メンバーそれぞれの方向が悪い意味でバラバラというか。
クイーン最大の強みである「全員が曲を書けてなんでもやっちゃう」という特長、これを何事か力技でまとめきるのがクイーンの作品の面白みだと思ってるんですけど、それが上手く機能していない感があります。実際この時期のクイーンって解散の危機に瀕していた訳ですから、散漫になるのも仕方ないんですが。
第11位 “Queen” (1973)
さて、第11位にはクイーンのデビュー作『戦慄の王女』。余談ですけどこれ完全に誤訳ですよね……
さて、肝心の内容なんですけど。正直初期のクイーンとしてはちょっと煮え切らないかなぁと。かなり1970年代のハード・ロックに素直な作品なんですよね。それこそ当時の批評家に「ツェッペリンのパクリ」扱いされたのもある種納得というか。
初期クイーンの作曲はマーキュリー/メイの二大巨頭で、どっちがよりスケールを巨大にできるかで競い合うような構図が目立ちます。その中にあって、まだまだマーキュリーの作曲スタイルは発展途上な印象です。『ライアー』なんて大好きですけど、以降の彼に比べると少しね……
『マイ・フェアリー・キング』や『グレート・キング・ラット』、『ドゥーイン・オールライト』なんてドラマティックな名曲も並んでいますが、クイーンが以降得意とする、スケールで無理くりねじ伏せるあの高慢ちきなスタイルはまだ確立されていませんしね。
それになにぶん、2ndでいきなり大化けして、そこから『オペラ座』まで駆け抜けちゃう訳ですから。対抗馬が初期の諸作となると、どうしてもパンチに欠けてしまうのは事実かな。まあ、比較対象が「クイーン」というのがそもそもかなり分が悪い勝負ではあるんですけど。
第10位 “The Miracle” (1989)
うーん、好きなアルバムなんですけどランキングにするとこの辺りが限界ですか。第10位には1989年リリースの『ザ・ミラクル』。
このアルバム、フレディ・マーキュリーのHIVポジティヴが発覚して初の作品なんですよね。ただ、そういう悲劇的幕引きは『イニュエンドウ』に譲る形になったので、どうにも影の薄いアルバムになっています。で、実際楽曲のパンチも前作『カインド・オブ・マジック』と地続きに捉えるとやっぱり弱い。ちょっと『ザ・ワークス』の頃の軽薄なポップスに走りすぎな感も否めないですし。
ただ、この作品にしかないテイストというのもあって。それは「空元気」感なんですよ。フレディ・マーキュリー、ひいてはクイーンの終焉がそう遠くない未来にあることを予期したからこその、ある意味では痛々しい爽快さ。ブライアン・メイ流ハード・ロックの極致『アイ・ウォント・イット・オール』や、テイラー会心の名曲『ブレイクスルー』なんかに感じ取れる傾向です。
マーキュリーのヴォーカルも、前作の晴れ晴れしさの延長にある素晴らしいものですしね。HIVポジティヴが発覚して、タバコもドラッグもすっぱりやめたことが影響しているんでしょうか?伸びやかさで言えば、この最晩年にこそ彼の真髄があるというのがもう驚異的です。
ラストの『素晴らしきロックン・ロール・ライフ』なんて、もし未来が違っていれば『ショウ・マスト・ゴー・オン』になれたかもしれない自信と覚悟に満ちた傑作で。スルーされがちな作品ですし、必聴級の名作!とは言わないですけど、この作品にしかないサウンドがある、個性的な1枚ではあるんです。
第9位 “Hot Space” (1982)
「逆張りオタク」のレッテル貼りを承知でこの位置につけましょう。「駄作」と今日まで悪名高い『ホット・スペース』が第9位です。
『地獄へ道づれ』の特大ヒットに全力で便乗してファンク一色の作品をリリース!……するもファンからも批評家からも総スカン。という大変評価の低いアルバムなんですけど、当時のファンの心境はともかく、現代からフラットに評価すると大変面白い1枚ではないかと思うんです。
『ザ・ゲーム』のところで、アメリカ市場を意識した楽曲がアルバムとしてのまとまりを破壊しているということを指摘しましたが、それは少なくとも本作にはないですね。A面では徹頭徹尾ファンクをやりきっているので、そこの統一感は感じられます。
それに楽曲もちゃんと評価してやるとなかなかの佳作揃いでね。『バック・チャット』や『クール・キャット』なんて、この時期に多かった「ロック・バンドのディスコ化」の中では最高の成功例じゃないですか?それでいて、B面には『アンダー・プレッシャー』筆頭に生真面目な名曲も並んでいますしね。
……とはいえ、あくまで一般の評価よりは大きいものを見出している程度のもので、決してクイーン屈指の名盤とは思わないんですけどね。それでも聴き返す機会は結構多いし、少なくとも私は「駄作」ではなく「異色作」くらいの表現が適切だと思っています。リアルタイムのファンの方々にこそ、色眼鏡をかけずもう一度挑戦してほしいアルバムです。
第8位 “Jazz” (1978)
日本では結構人気の高いイメージもありますが、『ジャズ』が第8位です。この辺、やっぱりリアルタイムの方とは見解の相違がある気もしますね。それもまたいとおかし。
それぞれのアルバムが出てきた時に語りますが、『華麗なるレース』くらいからクイーンが取っていた「個々の楽曲のパワーで勝負」というスタイル、その極致が本作でしょうね。とにかくやりたい放題、アルバムとしてのまとまりなんてほとんど気にせず、面白い曲をいいだけ詰め込んだおもちゃ箱のようなアルバムです。
ただ、興味深いことにサウンドの質感は前作『世界に捧ぐ』と比べるといくばくか初期の優雅さを取り戻していて。そこにアメリカンなロックだったり、あるいはピアノ・ジャズだったり、フォーキーなバラードだったりを盛り込んでいるので余計ガチャガチャしたアルバムになるんですが。
ただ、その「ガチャガチャ感」が不快ではないんですよ。次に何が飛び出すかわからない、スリリングな構造。何しろアルバム開幕の『ムスターファ』がアラビア語のアカペラですからね。本当に何するかわかったもんじゃない。おまけに『バイシクル・レース』でもやはり我が道を行く訳ですから。
「名盤」として評価するなら、もっと名盤らしい作品はいっぱいあります。だからこそこの位置になってしまうんですけど、それ以上に面白いアルバムですね。「なんでもあり」がクイーンの特長ならば、ある意味では最もクイーンらしいアルバムと言えるかもしれませんから。
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