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独断と偏見で選ぶ、「2021年上半期ベスト・アルバム15選」

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“An Overview On Phenomenal Nature”/Cassandra Jenkins

Hard Drive

カサンドラ・ジェンキンスの2枚目のフル・アルバム。これに関してはこの記事を書くに当たって聴き返していると、どんどん私の中で株が上がってきてピックアップした作品です。

一言で言ってしまうとインディー・フォークって感じのサウンドなんでしょうか。ストリングスだったりブラスだったりは挿入されるんですけど、どの楽曲でもその効果って実にさりげなくて。一般的にこうした楽器がもたらす華やかさではなく、アンビエントで刹那的な質感をこの作品に与えています。

こういう静謐なフォーク作品、それも女性アーティストとなると思い出されるのがテイラー・スウィフト『フォークロア』じゃないかと思います。グラミーも獲得した昨年の音楽シーンで傑出した名盤。実はこの作品のプロデュースに参加したのは、『フォークロア』にも携わったジョシュ・カウフマン。やはりというか、両者の表情はとても似ていますからね。

ただ、より寂しげで切ないサウンドスケープが本作の特徴でしょうか。アンサンブル自体は結構ゴツゴツした部分があるのも意図的なアンバランスって感じで面白くて、30分ほどの小ぶりな作品とは思えないくらい深みのある1枚です。これ、まだまだ私の中で評価上がりそうな気もしてるんですよね。

“Art Of Losing”/The Anchoress

The Anchoress – 5AM

これ、個人的な刺さり具合でいったら最初に紹介したblack midiと2トップかもしれません。The Anchoressことキャサリン・A・デイヴィスのアルバムです。フル・レングスのものだと2枚目に当たるんですかね。

もうね、こういう作品大好物なんですよ。ボン・イヴェール的な静謐を伴うインディーぽさも好きだし、彼女のドラマチックな歌唱がそこに乗っかって生まれる淫靡な光沢みたいなものも好きだし、ちょっと大袈裟な部分なんて往年のシンフォ系プログレに繋がってくる瞬間もあったりして。

この作品から漂う名盤の風格みたいなものもツボなんですよね。通奏低音としてのインディー的なサウンドスケープというのはある上で、温度感のコントロールが絶妙というか。「そろそろこういう展開が欲しい」ってタイミングでそれがくる感じ。「そうそうこれこれ!」みたいなね。

他の方が挙げられている2021年上半期ベストも結構拝見させてもらっているんですけど、この作品をあまり見かけないのに結構驚きました。私は文句なく好きなので臆することなく選出しますが、この作品に対する私の反応が思いの外個人的なフィーリングに由来しているというのは面白い気づきでしたね。

“Small Talk”/Good Morning TV

女性アーティストが続きますね。こうしてチョイスすると自分でも気づかなかった傾向が見えるというのは面白い。フランスのインディー・バンドのデビュー作です。

こういう音楽もズルいですよね、嫌いになる要素がないというか。この作品に感じられるメロディの愛くるしさをフレンチ・ポップと結びつけるのは安直すぎる気がしないでもないですが、この独特のキュートな魅力というのはこの作品を際立たせる重要な要素だと思います。

で、そのメロディを紡ぐウィスパー・ボイスも絶妙に可憐で。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのビリンダ・ブッチャーの儚さだけ残して、甘さの代わりに清涼感をプラスしたみたいな印象を受けます。サウンド全体もほんのちょっぴりシューゲイザーチックですしね。

そこに若々しさ、あるいはある種の青臭さみたいなものがブレンドされているのもいいんですよ。多分私と同年代か下手したら年下かもしれませんけど、すごくキュンキュンするようなアルバム。ドリーミーさと青臭さ、両方大好きな私からするとドストライクですね。

“Private Reasons”/Bruno Pernadas

BRUNO PERNADAS – Theme Vision

「ポルトガルのスフィアン・スティーヴンス」ことBruno Pernadasの新作です。ちょっと前から活動されているアーティストみたいですが、あいにく今作で初めて知りました。

感想としては……難しいアルバムだなと。アフロ・ビートの要素もあるけれどサウンドは結構デジタルな方向に振れているし、かと思ったらエスニックな旋律が聴こえてきたり。結構取り止めのないというか、一言で説明しきれない幅のあるアルバムだと思います。

ただ、その難しさが癖になる作品でもあるんですよね。聴き手に歩み寄る作品というよりはむしろ、聴き手を吸引しちゃうようなタイプのアルバムです。個人的には「アフリカン・バロック・ポップ」みたいな瞬間が好きなんですが、それだけの作品という訳でもなくて、ついついのめり込んでしまう懐の深さみたいなものを感じさせます。

多様な音楽性をポップネスでグッとまとめている作品なので、だいたいの音楽ファンならどこかしらに惹きつけられるものがあるような気がしますね。「ここが聴きどころ!」みたいなものがいい意味でない、総体としてのアルバムの底力で聴かせる作品です。

“Ignorance”/The Weather Station

The Weather Station – Robber (Official Video)

この作品もさっき紹介したThe Anchoress同様「名盤」オーラ溢れる1枚。多くの方の上半期ベストにも顔を見せていた貫禄ある作品ですね。ザ・ウェザー・ステーションの”Ignorance”です。

洋楽ファン、それもTwitterなんかで日夜情報を集めるようなマニアックな方ならもれなく好きそうなサウンドです。作品全体のトーンとしてはダークなんですが、その中にほのかに光が差す。そういう古典的カタルシスを堪能できる作品ですね。

そう、結構この作品ってクラシカルなのかなと個人的には思っていて。現代のインディー・シーンに明るい訳ではないですが、こういう「暗いロック」に正面から取り組んだ作品って少なくとも私が今年聴いた新譜にはそこまで見当たらないんです。

それと、徹底して陰鬱かというとそういうことでもなかったりするんですよね。楽曲によっては跳ねたグルーヴを感じられたりもしますし、シックな温度感の中でのバランスがよく練られている印象もあります。そういう緩急の妙も込みで、一聴して名盤だと気づかされる1枚です。

“新しい果実”/GRAPEVINE

GRAPEVINE – ねずみ浄土(Official Music Video)

日本からも選んでおきましょうか。と言ってもこの作品に関しては忖度でもなんでもなく、ここまでに挙げたグローバルな名作に匹敵する名盤なんですが。GRAPEVINEの最新作ですね。

正直私はそこまでGRAPEVINEは詳しくないんですよ。コアな音楽ファンの方はもれなく好きなバンドって印象なので気にはなっていたんですが。それで新作が出ると聞いたので手を出してみたらこれがいいのなんの

GRAPEVINEの持つ直球オルタナティヴと邦楽的メロディ・センスのブレンドというのは今作でも健在なんですが、1曲目の『ねずみ浄土』から驚かされましたね。ネオ・ソウルかってくらいに上質で滑らかなグルーヴ。いなたさの中で色気もムンムンに漂っていて、「オトナのロック」って感じです。

どこまでも隙がなく高密度、それでいて余裕みたいなものすら感じさせるアルバムです。この作品がGRAPEVINEのカタログの中でどういうポジションにあるのかというのは論じることができませんが、彼らのキャリアでも屈指の名盤の誕生なんじゃないでしょうか?外野ながらそう思えてしまうくらい素晴らしい作品でした。

“Smiling With No Teeth/Genesis Owusu

Genesis Owusu | The Other Black Dog (Official Music Video)

最後にヒップホップからもチョイスしておきます。ガーナ出身、オーストラリアで活動するGenesis Owusuの作品。

ヒップホップの新譜だとそこまで刺さる作品今のところなかったんですが、これは唯一と言っていい例外です。楽曲毎に結構タッチは変わるんですが、一貫してアーティスティックというか攻めたアプローチ。「やりたいこと詰め込みました」みたいな自由さが心地よいグルーヴに反映されています。

最初聴いた時にどことなくプリンスに近いものも感じたんですが、調べてみるとやはり影響を受けているみたいですね。ブラック・ミュージックの根っこの部分は大切にしつつ、その上でトリッキーなことをやりまくるところなんかは共通しているように思います。

私もその手合いなんですが、ヒップホップにそこまでアンテナを貼っていない人でもこの作品は聴く価値ありだと思いますね。作品の核となっているのはラップよりもむしろグルーヴなので、ソウルの延長線上としても咀嚼できるサウンドじゃないでしょうか。

まとめ

当初は文字数の都合もあって10枚にするつもりだったんですが、紹介したい作品があまりに多くて無理やり5枠追加しました。おかげさまでとてつもない文字量ですがお楽しみいただけたでしょうか。

冒頭にも書きましたが、古い音楽ばかり聴いてきた私にとって新譜から得られるものは本当に大きかったです。なにしろ評価が定まっていない訳ですから、自分の耳と頭だけでその作品を理解していく必要がありますからね。

こういう体験が希薄だったということもあって、本当に新しい発見だらけ、感動だらけの上半期でした。その感動を少しでもこの記事でお裾分けできていれば嬉しいです。

上半期で選出したということは、今年の末にも年間ベストを発表する予定です。その頃にはここで紹介した作品は何枚食い込むのか、あるいはまだ見ぬ名作が席巻するのか、今からワクワクしますね。それではまた。

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