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ピエールの選ぶ「オススメ新譜10選」2026年2月編

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さあ、「オススメ新譜10選」2月編と参りましょう。バックナンバーは↓からどうぞ。

2026年はちょっと暦の具合がよくなくてですね、2月の最終金曜日が28日ということで、その週のリリースを確認して盤を選んでレビュー書いてとなると少し遅れてしまいました。しかも2月の最終週、これがまたえげつないリリースばかりでね。3月編も似たようなタイミングでの投稿になりそうですがご容赦ください。

ということで、限界ギリギリまで悩んで選んだだけあって今回ご紹介する10枚は文句なくいいアルバムです。巷で騒がれたあれやこれやも入れつつ、「これもしかして皆聴いてないですか……?よかったですよ……?」みたいな作品もピックアップしておりますので、ぜひ2月のリリースのおさらいにご活用ください。ということで、ピエールの選ぶ2026年2月のオススメ新譜、こんなラインナップです。

“Nothing’s About To Happen To Me”/Mitski

さあ、2026年に入って一発目の本命です。フジロックへの出演も決定している、Mitskiの最新作“Nothing’s About To Happen To Me”。2作前の“Laurel Hell”で初めて出会い、続く2023年の“The Land Is Inhospitable And So Are We”で完全にノック・アウト。リンクを入れた通りどちらもその年の年間ベストにも登場しましたが、今回も間違いなく年末に褒めちぎることになる1枚でした。

方向性としては、それこそ前作でのアメリカーナ的で広大なサウンドスケープから地続きではあります。”Laurel Hell”がシンセ・ポップ的な手触りの作風だったのであの転身の衝撃は未だに記憶していますが、そういった新鮮さは今回はなかったですね。ただ、あの淑やかかつ厳かな世界観を続けながら、キャリア初期に強く発揮されたオルタナティヴ・ロックのダイナミズムや刺激、ここを上手く盛り込んでいるのが素晴らしいです。2曲目の“Where’s My Phone ?”、これなんて会心の一撃でしょう!コケティッシュでもあり、アウトロでファズ・ギターは泣き叫び、なのに気品まで感じられる。

そして、彼女を語る上で欠かせないサッド・ガールの表現性に照らしても抜群です。前作ではサウンドスケープの広大さを逆手に取って、その中で立ちすくむことの孤独を描いていましたが、サウンドの習熟やロック的な生々しさも手伝って、より人間味をはっきりと感じられたように思います。“If I Leave”での淡々とした8ビートと不穏なギターの和音、そしてそっと乗せられた歌声なんてのはその中でも白眉と言えそうですね。あるいは、もっと柔らかい情緒ならばうっすら漂っているコーラスが美しい“Instead Of Here”なんてのもあります。

初めて彼女が称賛を浴びた“Puberty 2”からの一連の創作、そこへの信頼度をまたしても担保する素晴らしい1枚だったと思います。今のシーンで一番信頼できるソングライターの一角としてMitskiの名を上げることが、なんら不思議でないですから。そして、本作を引っ提げた彼女をフジロックで観るのが今から待ち遠しいです。オルタナティヴ・ロックらしいテンションの振れ幅があるので、きっとライヴでもストレートに響くでしょう。

“Icon”/Brent Faiyaz

2月を振り返ってみて、ソウル/R&Bに魅力的なリリースが実に多かったと感じます。今回は紹介しないんですがJill ScottBruno Marsもいましたね。その中でも個人的なハイライトはこの1枚、Brent Faiyaz“Icon”です。恥ずかしながら私は本作まで名前すら知らなかったんですが、10’sの時点で一定の成功と評価を収めているようですね。

「そうそう、ソウルってこうだよね!」と、始終大きく頷くことになる1枚でした。なにしろ、休む暇なくロマンチックでメロウなヴォーカリゼーションが堪能できます。昨年のDijonであるとか2024年のMk.gee、もっと遡ってFrank Oceanとかもそうだと思うんですけど、この10年くらいのソウルの傑作ってプロダクションの鮮やかさが先行して、そこにポップネスをどう滲ませるかという、そんな風向きにあるような気がするんですよ。そこへいくと”Icon”はその逆、前提にあるのはメロディでありヴォーカル、そこを補強するためのサウンドという順序に感じられます。

このポップネス先行の意識の結果、本作は「80’sリバイバル」ではなく「20’sの方法論をオーパーツ的に導入した80’s」に聴こえてきます。土俵はあくまで80’sで、そこに現代の手法が滑り込んでくるといった具合。それはあからさまなソフィスティ・ファンク“other side.”であるとか、なんともソウル・シンガーらしいファルセットの光る“world is yours.”、この辺の正統派な名曲に顕著かと思います。そして紛れもないベスト・トラック、“pure fantasy.”の素晴らしさときたら!とびきりスウィートなメロディ・メイクといじらしい歌声の魅力は、この私をしてMichael Jacksonを彷彿とさせたほどです。

去年の年間ベストでも最上位につけましたnokioもそうですけど(誰も話題にしてないのが何かの陰謀論に思えるくらい名盤でしたので今からでもぜひ)、The Weekndなんかが地道にやってくれていたアーティストとしてのMJの継承がここにきて芽吹き出しているような、そんな嬉しさもある作品でした。Princeの参照はもうみんないいだけやったでしょ、そろそろMJにも目を向けていきましょう。ええ、あなたに言ってるんですよDijon。

“Piss In The Wind”/Joji

リリース直後くらいにXにも書いたんですけど、Joji“Piss In The Wind”が全然騒がれてないのなんでなんでしょう……AOTYのレーティングも批評家/ユーザーともに好反応とは言えないですし、Xでも全然リアクションが見えてこなくて。前作“SMITHEREENS”でグッときた私なんかからすれば、3年以上のインターバルにも納得いく見事な仕上がりの名作なんですがね。

アンビエントR&Bの手法にのっとるのはこれまでと共通しつつ、Mk.gee(こいつ一生Mk.geeの話してるな)以降の幻想的なノスタルジーにもきちんと呼応し、かつ作曲が前作以上にクリアーでリスナーに向かい合っている。え、これダメなの?軽やかなビートとセピア色のシンセサイザーが展開される“Last Of A Dying Breed”に続く、名前からしてMy Bloody Valentineへの意識が明示的なシューゲイズ調の“LOVE YOU LESS”。序盤のこの展開とか、うっとりしちゃうくらい秀逸だと思うんですけど、ダメですか?

そして今作、21曲46分という、楽曲単位でのラン・タイムがかなり短い構造になっていてね。それぞれがアルバムの進行に繊細な色合いをつけつつ、ひとところに留まらない、さながらジャケットに描かれた荒野を彷徨い歩くような印象を与えてくれます。その中でも、不意に訪れるピアノ・バラード“Past Won’t Leave My Bed”での温もりはとりわけ効果的だと思います。総体としてはやはりメランコリックで、“Strange Home”から“Dior”での締めくくりも沈鬱ではありながら、作品全体に何か爽やかな心地があるのはこの曲が効いているような気がしますね。

くどいようですがもう一度。え、これダメですか?楽曲の手数の多さに対して膨らませ方が足りないということなのかな……あるいはサウンドそのものに飽和した印象がある?まあ確かにシンセの使い方なんかは鮮烈というわけではないでしょうけど、プロダクションも十分に魅力的だと思うんですけどね。Jojiって若いインディー・リスナーの方からもしっかり支持されているイメージなので、もしかしたらみんなチェックが漏れているのでは?ということで、この作品の魅力は強調させてもらいますよ。

“Skin Turns Red”/aeter

ここからはヒップホップを2作品。ただ、本作はラッパーという肩書きがついているだけで、私の中では黒いシンガー・ソングライター作品という受け止め方をしています。aeter“Skin Turns Red”。これもさっきのJojiほどではないですが、15曲39分とかなりコンパクトに畳み掛けるタイプの作品です。これも“brat”サマーの残り火なんでしょうか、あくまで体感として、あれ以降このフォーマットを見かける機会が増えたように思いますね。

さて、冒頭に書いた黒いシンガー・ソングライター作品という本作への印象についてなんですが。例えば“Dove”はトラックの有機性やメロディの柔らかさがインディー・ポップ的だし、“How To Draw”なんてポストパンク・リバイバルの延長線上にある聴き心地です。そう、ヒップホップ、あるいはオルタナティヴR&Bから聴こえてくるようなビートやグルーヴの面白さというアプローチにとどまらない、サウンドの幅が実に広範な1枚になっています。これだけのアイデア、よく1つのアルバムに落とし込もうとしたものですよ。

そしてそれらを、彼のくぐもったフロウ(本作で明白にラップと言えるパフォーマンスを披露する瞬間は決して多くありませんが、便宜上フロウと表現しましょう)と共に、内省的な筆致でまとめ上げている。サウンド・アプローチの多彩さは作品の射程を広げる方向に作用しがちですが、本作ではあくまでaeterの周囲数mの、こぢんまりとした範囲で美しく響いています。前作“Clown”とその温度感は共通していますが、サウンドの手数の多さで大いに差別化できているし、次にやってくるテクスチャが読めない分だけより作品の集中力も高まっていると感じました。

2月に期待していた内向的ブラック・ミュージックにChoker“Heaven Ain’t Sold”があったんですが、正直言ってaeterの方がよくできている気がしますね。もしChokerは聴いたけどこちらは未チェックという方があれば、ぜひ聴き比べていただきたいです。トラックの練りもいいし、曲単位での精度も高い、なかなかにそつのない名盤だと思っていますので。

“Tigray Funk”/Sideshow

ということで、こっちはちゃんとヒップホップらしいヒップホップです。この数年で知名度を高めてきた期待のラッパーのようですが、Sideshow“Tigray Funk”。彼が絡んでいる人物が面白くてね、The AlchemistEarl Sweatshirt、それにMIKE。どうですこの信頼に足る顔ぶれは。如何にもややこしいリスナーが好きそうでしょ?当然のように、ややこしいメディアことPitchforkも高得点を与えたようです。あそこはたまに気が合うから困る。

さてさて、ちょっと権威主義めいた物言いになってしまったので、作品について。これまたJojiやaeterに通ずる構造ですね。4枚立てになっていて全32曲、しかし収録時間はおよそ1時間と、楽曲ごとなら2分やそこらのトラックを次々に展開していきます。その中で、本作が最も正々堂々その乱作ぶりを発揮していますね。コラージュ的に、耳を引くアイデアをものの1〜2分で使い捨てていく、さながら制作に取り掛かる前のブレインストームの痕跡をそっくりそのまま音源化したかのような無軌道な作りになっています。

こうなってくると個人的な美学には沿わない作品になるかと思いきや、トラックの鮮やかさが1時間にわたる取り留めのなさに待ったをかけてくれました。ハードでいてシリアス、そしてローファイと、かなり硬派なトラック・メイクなんですよね。そして曲の短さゆえに、そのそれぞれにしっかりフックとなるフレーズが忍ばせてある。アンダーグラウンドだし、無軌道ではあるんですが、アブストラクトではないんですね。ヒップホップのチャンネルに意識を持っていけば、すっと受け止められる普遍性をこのスタイルでも提示できているのが見事です。

そんでもってこの作品、とにかく飽きがこない。何度聴き直しても「あれ、次はこっち行くんだっけ?」とリスナーの意識を撹乱してくれるので、新鮮な気持ちで作品に挑めます。ヒップホップ自体まだまだ私の中に馴染んでいないジャンルという自覚もありますし、1時間というのはかなり気張らないと聴けないラン・タイムのはずなんですが、本作は実にすんなり聴けてしまいます。2026年のヒップホップ・アルバム暫定トップと言えるんではないでしょうか。

“Everyone Good Is Called Molly”/Nashpaints

リリース直後から界隈では話題になっていた印象の1枚ですね。それもむべなるかな、素晴らしい作品でした。アイルランドはダブリンより、Nashpaints“Everyone Good Is Called Molly”です。これはまあ、なんともXに棲息する音楽オタクを唸らせる1枚だったのではないでしょうか。

ドリーム・ポップ/シューゲイズ、あるいはそのルーツの1つであるサイケデリック・ポップを、ローファイかつアンビエント的にユナイトした1枚……ほらね、オタクの好きな単語が目白押しでしょ?ただ、そういう字面の話にとどまらない本質的な作品ですよ。個人的に真っ先に連想したのがヴェルヴェッツの1st。どちらもメロディの主張が希薄(ヴォーカルの参加時間に比して)というのも共通項ではありつつ、なによりあのアルバムが濃厚に醸す退廃的な味わいを、うんと甘ったるく抽出した作品というのが第一印象でした。

この甘ったるさというのが、また嫌味がないんですよ。随所でベースがしっかり効いてるのも全体像を必要以上にふわふわさせないことに一役買ってそうですが、肝心なのはサウンドの振れ幅。ここがしっかりしてるので、やっつけ仕事な感がしていません。象徴的なのが“Boyfriend First”から“Link”の運びだと思います。オルガンとハーモニーで温もりを帯びたその直後に、大いにエレクトロ的でアブストラクトな音像のインストゥルメンタルをインサートする、ナチュラルなんだけどよく考えると結構強引な展開を聴かせてくれますから。

私がヴェルヴェッツを想起したのも、単にあの時代の音が私にとって一番しっくりくるというだけで、リスナーそれぞれの経験値によってそれぞれの思い描くサウンドスケープがきっとあるんでしょうし、その全てをうっすらと包摂してしまっている。この音を私は知っているはずなのに、同時にこの音を私は知らない。そんな得体の知れない鮮烈さが印象的な1枚でした。

Everyone Good is Called Molly, by Nashpaints
12 track album

“Singin’ To An Empty Chair”/Ratboys

2023年の“The Window”もそれなりに話題になっていた記憶があります。私も当時の年間ベストに選んでいますね。そんなシカゴのロック・バンド、Ratboysはキャリアも10年を超えて中堅どころになってきている訳ですが、今回の“Singin’ To An Empty Chair”、これは会心の名作と言っていいのでは。

アコースティックな柔らかさを基盤としつつ、しっかりノイジーなギターも主張するという音楽性自体は過去作と共通しています。ただ、その深みは格段に増していますよ。その深みを醸しているのは、主にアコースティックの側からですね。おおらかさやサウンドスケープのボリューム感が飛躍的に向上しているんです。アンサンブルもどっしり構えたものになっていて、前作の魅力でもあった若々しさや向こう見ずさみたいな成分が、今作では成熟に取って代わられているのがはっきり聴き取れます。それはまるである時期のBig Thiefのような。

で、この音像の成熟に伴ってか、あるいはこっちが先かもしれませんが、ソング・ライティングも確実にレベル・アップしてますよね。Julia Steinerの歌声の線の細さはそのままに、メロディの余韻であったりサウンドへの寄り添い方であったり、つまりは聴き入ってしまう類の楽曲をいくつも書けています。そして、だからこそ、不意を突いて登場するギターの鋭さがますます光っている。“Burn It Down”“Just Want You To Know The Truth”でのギター・プレイの大上段な構え方なんてのは、そこまでの嫋やかさありきでしょうから。

前作と同年に出たWednesday“Rat Saw God”、あるいは同バンドのギタリストMJ Lendermanが2024年に発表した“Manning Fireworks”、この辺りの近年における重要作と上手く呼応しつつ、バンドの表現力がきちんと底上げされている。1月はあまりロックでピンとくるものが多くなかったですが、2026年のロックを不安がる必要もどうやらなさそうです。それと、こういうささやかながら見事なドラマに気づけるのも、新譜をチェックしていることの見返りの1つかもしれませんね。

“Heaven 2″/Lala Lala

彼女もシカゴの人脈ということで、Ratboysと並べて語っておきましょう。音像の上で距離感が近いという訳では全くもってないんですが、ほら、4月にやつらが控えているので、シカゴ・シーンは今のうちから強調しておきたくってね。Lillie Westによるプロジェクト、Lala Lala“Heaven 2”です。

オープナー“Car Anymore”のイントロで跳ねる鍵盤、この時点で心を鷲掴みにされちゃったんですが、エレ・ポップ的な立ち上がりを見せながらも、そこから立ち上がる印象が実に独特でしたね。ミニマルなようでいて空間的な広がりもあり、未来的かと思えば強烈なノスタルジーに襲われもし、淡々としている風なのにインディー的な人肌の温もりというのも感じられる。なんとも複雑です。こういう多層的な情緒を、音そのものにはむしろ統一感を持たせながら、30分少々というラン・タイムで聴かせる仕事ぶりが天晴れですよ。

これがどこから湧いてくる感覚なのかというと、まず電子音についてはローファイとすら言えるザラつきが認められます。Y2K的なそれとも少し違うような、もっとドリーミーなザラつき。これは先に挙げた麗しい矛盾のうち未来感/ノスタルジーの解決になると思いますね。そして、実にメリハリが効いていて、かつ几帳面なんですよ。“Arrow”の8分で刻むシンセ・ビートなんて、おいおい”Take On Me”じゃないんだからといった具合です。ミニマル/空間性はここが活きているんだと思いますね。

では、何に対して几帳面なのか?それはメロディです。この作風なのにきっちりSSWしてるし、そこに音像が歩調を合わせている。これこそが淡白さ/人肌の共存の所以でしょう。なんだかエレ・ポップの必要条件を並べただけにも見えますが、ここまで丁寧に作られた作品、なかなか聴けるもんじゃないですよ。その丁寧さがしっかり作品の方向性と合致していて、ポップスとしての耳馴染みのよさに直結しているんですからね。

“ISOLA”/Gabriela Richardson

これはXでのレコメンドを見かけて捕まえられた1枚。スペインのシンガー・ソングライター、Gabriella Richardsonのデビュー・アルバム“ISOLA”です。デビュー・アルバムとほ書きましたが、キャリア自体はもう10年以上になるようで。これだけの期間アルバムを作らなかった理由、軽く調べても出てこなかったんですが気になりますね……

だって、こんなに秀逸なんですもの。スペイン、つまりはラテン的な活力はありつつ、抑制されたグルーヴにはネオ・ソウルらしさもあり、でもドリーミーな儚さシンフォニックな品格トラディショナルな穏やかさもあって。“TI AMO”という曲なんてロマンチックなのに長閑だし、何気なく添えられたインストゥルメンタル“Willoughby Ave”のセンチメンタルな柔らかさからとりわけラテンな歌い回しが効いた“Alma de Diamante”へと繋がる流れもお気に入りです。

で、これだけ複雑な味わいを持つ作品ながら、決してそれをひけらかすような真似はしないんです。言うなればささやかなホームパーティーのような、親密さとリラックスした趣が主体ですからね。そうした方向性で本作を見つめると、ハイライトは“Palomita Negrita”ということになるのかな。オーガニックな質感で、さっき紹介した”Alma de Diamante”との対比も面白いキュートな歌声が聴ける、決して派手とは言えないナンバーですが、その何気なさが堪らなく愛おしいんですよね。

RosalíaにBad Bunnyと、ラテン圏からトップ・スターが登場する現代シーン。昨年の年間ベストにどちらも選んでいない私が言ったところで説得力は皆無ですが、でも彼ら彼女らのおかげでリスナーにラテン的な音楽への受容体が生まれていることは間違いなく事実だと思います。そのタイミングでこの1枚に出会えたのもなんとも幸運なことでした。

“Another Day After Story”/なるぎれ

ああ、今回は日本の作品扱う枠なさそうだなぁ……と思っていたところに、滑り込みで素晴らしいアルバムを見つけることができました。仙台のバンド、なるぎれの2nd“Another Day After Story”。これがもう瑞々しい1枚でね、すでにレビューまで書いて準備していた別の作品と急遽取り替える形で紹介させていただきます。

00’s中後期からのオルタナ・カルチャーの影響をはっきりと表明している作品、そんな第一印象です。音楽性の上での参照元はハヌマーンやきのこ帝国ということなんですが、「残響系」からも影響受けていそうですよね。“鉄塔”という曲に明らかだと思うんですけど、屈託のないヴォーカルと高密度のアンサンブルの美しいミスマッチはPeople In The Box的かなと。あと、“今から”“Mamimi”のアウトロでのギター、テクニカルな奏法に頼らない、歪みのよさとメロディアスなフレーズで真っ向勝負するプレイもなんだかノスタルジックです。

そして私が「オルタナ・カルチャー」と書いたのは、この作品からはアニメからの影響をすこぶる感じるからですね。“(アイキャッチ2)”はもはや悪ふざけ一歩手前(「けいおん!」、いいですよね)のユーモアがあり、自主レーベルの名前からして「なるぎれ製作委員会」ですよ、気持ちいいですね。で、そういう小ネタ的な話だけでない、作品が纏っている淡さ、バンド・サウンドなのにどこかフィクショナルに聴こえるムードというのは、そういうアニメ的な景色に基づいているからなのかなと。(「並行世界の軽音部」という歌詞がすごく象徴的だと感じます)

そういう意味で、私の中では昨年の“kurayamisaka yori ai wo komete”であるとか、あるいは結束バンドの1stなんかと同じ引き出しにしまいたい1枚です。私が経験していないはずの架空の青春で、確実に脳の特定領域を焼き切りにくる毒性の高いギター・オルタナティヴという括りでね。この手の感傷に弱くなってきているのは何やら加齢の気配も感じて怖いんですが、今の私が欲するギター・オルタナティヴはこういう音であるのもまた事実です。

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