特別賞/第10~1位
特別賞 “We Are The World”
TOP10に入る前に特別賞を。流石にこれをMJの楽曲ランキングに入れるのはちょっと意味合いがズレちゃうし、でもソロ・バージョンはあくまでデモなのでレギュレーション違反だし、でもひっくり返るくらい好きだし……ということでここで語ります。“We Are The World”です。
1980年代という洋楽ポップスが最も輝かしかったあの時代に、これだけのメンツが集まって作り上げた1曲。その事実にアーティストたち自身酔いしれていただろうし、チャリティの名目も西側諸国の偽善かもしれません。それでも、この曲のメッセージは絶対に忘れちゃいけないし、人類社会にこの曲が遺されたことに感謝したい。
どこを切り取ってもいいヴォーカルしか聴こえてこないこの曲ですが、個人的なベストは後半のStevie WonderとBruce Springsteenの掛け合い。これ、やってることは“Black Or White”と一緒なんですよ。白人と黒人のテッペン連れてきてぶつけさせるという、ポップスによる人種の融和。直前がBob DylanとRay Charlesというところも込みで作為的な仕掛けだと見ています。
第10位 “Rock With You”
R&B、これだけでよくないですか?……失敬、おいたがすぎました。でも“Rock With You”の途方もないクオリティの前では、そう言いたくなる気持ちも分かってほしいですね。だって、あまりにいい曲ですよ。
イメージの乖離を理由にQuincy Jonesとのパートナーシップに周囲は反対したというのは有名な話ですが、言っちゃなんですけど2人を舐めすぎです。Jonesはキチンと1970年代末のアダルト・コンテンポラリーのトレンドの一番美味しいところを理解していたし、それまでのキャラクターからいって僅かに背伸びが必要なこの曲に、MJは伸びやかに応えていますからね。
加えてこの曲の強度を担うのは、うっかり完璧と言いたくなるほど見事な演奏でしょう。何一つ出しゃばらずに、全てが適切な位置で適切なグルーヴを生んでいます。こと演奏に限っては、彼のソロ・キャリアでも最高の代物です。
第9位 “Who Is It”
Michael Jacksonのソングライターとしての怪物ぶりは言論弾圧でもあるのかと疑いたくなるほどに語られませんが、まずこの曲を突破口にしましょうよ。アルバム“Dangerous”より“Who Is It”です。
ニュー・ジャック・スウィング特有のビートのキレは活かしつつ、ミステリアスな意匠とディープな低音域によって漆黒のドレスを纏ったこの楽曲。プロダクションの時点で極めて優れているんですが、独り言つような歌唱からサビの重厚なハーモニーも天晴れです。“HIStory”期の内的なそれとも少し違う、あくまで表現として外的に完結している闇深さ。
MJがしばしば用いるコーラスとビートの融和の表現も、ルーツとしてはファンクの変異体なのでしょうが、ヒップホップの時代を受けていよいよこの曲で完成形に至っていますね。正直“Remember The Time”をベタ褒めする前にこっちだろと思っています。
第8位 “I Want You Back”
伝説の始まり、The Jackson 5のデビュー曲“I Want You Back”です。「Diana Rossが発掘した」というハッタリをかましたとはいえ、デビュー・シングルであの“Let It Be”に取って代わって全米1位というのは、その後40年にわたるMJの伝説の幕開けに相応しいエピソードです。
前回の投稿でもチラッと書いてますが、「ポップとはこういうことだ」と言わんばかりの仕上がりにはヒット生産工場モータウンの本気を見る思いです。ベース・ラインについては語り尽くされているでしょうけど、曲の軽やかさに反してややもったりとしたドラム、それを繋ぐコンガのハッピーぶり、そして楽曲に大輪の花を添える上物の諸々、最高の構成です。
そしてそれを歌いこなす「マイケル坊や」のなんと素晴らしいことか……その後40年にわたって多くのドラマと困難が待ち受けていることをつゆも知らない、ただ音楽への喜びに溢れた名唱です。11歳の掛け値なく純真な少年にしか、この曲の真なる多幸感は引き出せなかったとすら思えますね。
第7位 “On The Line”
これはSpike Leeの映画“Get On The Bus”への提供曲ですね。録音時期としては1996年、“HIStory”の少し後です。シングル化もされずショート・フィルム『Ghost』の特典ディスクやボックス・セットに収録されたのみのレア曲“On The Line”。
これがまたいいんだ……作曲者こそ違いますが“Keep The Faith”の延長線上にありそうな、聴く者を鼓舞するバラードです。ただ、こちらはMJの歌唱がとにかく切実。二人称に語り掛けてはいますが、「心が折れそうになる限界までやってみるんだ」というリリックは、制作時期もあいまって打ちひしがれる彼自身を奮い立たせるかのようです。
この温度感、彼の作品になかなかないんですよね。基本的にMJは我々の手を取り進んでいきますし、一方で“HIStory”の楽曲は聴き手が感情移入できぬほどに打ちのめされているので……彼自身がなんとか立ち上がろうとする瞬間を切り取った、親しみと憧れ、そして勇気を感じることのできる大切な1曲です。
第6位 “Jam”
アルバム“Dangerous”のオープニングを担う“Jam”。再生するや否や飛び込んでくるガラスの割れるサウンドのインパクトとは裏腹に、聴けば聴くほどその凄まじさが身に染みる傑作ですよ。
Janetの“Rhythm Nation”を相当意識しているとは思うんですけど、そこに“Smooth Criminal”由来のアジリティを追加した結果、とんでもないキレとパンチを生み出すに至っています。“Bad”期に確立したエッジをヒップホップ/ニュー・ジャック・スウィングの台頭に対応させた、1990年代の「キング」のスタイルを誇示する1曲としてこれ以上のものはありません。
ビートを追い抜かすほどスピーディーなヴォーカル・スタイルや、うっすらシンセサイザーがかかっている程度で相当にソリッドなトラックもそうですけど、実はかなりポップスから遠いことをしてる曲じゃないかな。それを堂々と聴かせる「キング・オブ・ポップ」のカリスマの圧力ったらないですね。
第5位 “Billie Jean”
Michael Jackson最高の名曲となると、一般にはキャリア最大のヒット・シングルでもある“Billie Jean”ということになるのでしょう。異論の余地など全くございません。文句なく大名曲、当然の第5位です。
改めて聴くと、この曲のイントロめちゃくちゃ攻めてますよね。何の変哲もないただの8ビートですよ?ここまでシンプルな導入って他にちょっと思いつかないですけど、そこに偉大なベース・リフが加わり、印象的なキーボードが差し込まれ、MJが歌い出せばあっという間に世紀の名曲の誕生です。ズルいなぁ……
構成する全てがストイックでシャープなのに、さながらダビデ像の如きしなやかな肉体美とエレガントな気品すらを感じさせる。なんだ、ステージ上のMJそのものじゃないですか。この曲はライヴ・パフォーマンスとは切っても切り離せませんが、それも必然なのかもしれません。
第4位 “Heal The World”
今なお彼にまとわりつくありとあらゆる偏見や奇異の目、そんなもの私に言わせれば、この“Heal The World”を聴いた瞬間に消し飛ぶはずです。その人が純粋なものを受け止めるだけの感性を持っていれば。
どうしてこうも優しい歌が歌えるんでしょう?「世界を癒そう、今よりいいところにしよう、君と僕と、世界みんなのために」……笑っちゃうくらいの理想を、彼はとびきりの慈愛を込めて世界に投げかけます。それは極めて平易な歌詞と、世界唱歌にもなり得るエヴァーグリーンなメロディからも伝わってきますね。
この音楽人生の中で美しい楽曲には様々出会ってきましたが、これほどに無垢なものは他に知りません。尤も、私はMichael Jacksonほど無垢な人間を他に知らないので、当然の帰結と言えるかもしれませんが。この曲を一切の嘘臭さなく歌えるのは、Michael Jacksonその人だけでしょう。
第3位 “Butterflies”
……場違いなことなど百も承知です。それでも私は、数々のヒット曲を押しのけて、このキャリア後期の類稀なる傑作“Butterflies”を第3位として語らせていただきますよ。
ネオ・ソウルのムーヴメントを追い風にしたアルバムである“Invincible”、その中でも彼の表現力が最も引き出された1曲だと思っています。特にヴォーカルですね。ねっとりとした立ち上がりから2番で聴こえてくるエンジェリックなファルセットのレンジは驚異的だし、コーラスを軸にしていることでその非凡な歌声は楽曲に溶け込んでいくかのよう。
JBに憧れモータウンで研鑽を積んだ、筋金入りのR&BシンガーであるMichael Jackson。彼の最高到達点と言っていい楽曲ですよ。甘美で、もはや神聖ですらある響きに包まれた、至福の名曲です。なぜこうも影が薄いのか、本当に不思議でなりませんね。
第2位 “Earth Song”
最後まで1位にするか悩んだんですが、ほんのわずかな差で第2位。“Earth Song”です。アルバム“Bad”以降のお約束であるメッセージ・ソングなんですが、同時に異色作でもありますね。
ポジティヴなメッセージを投げ掛けるのではなく、戦争や環境破壊で失われた全てのものを追想し嘆くばかり。“HIStory”期の彼のメンタルの荒廃が悲しいかな露出していますが、その生々しい感情が壮大なサウンドとおそろしく相性がいいんですよね。後半のゴスペル・パートなんて圧巻です。
そう思うと、この曲がイギリスでキャリア最大のヒットとなったのも納得できるんですよね。このダークさと剥き出しのエモーション、そしてダイナミックなスケールというのはUKらしい感覚で聴けちゃう部分もありますから。ピエール少年が後にUKロックの泥沼に沈んだのは、この曲のせいなのかもしれません。
第1位 “Man In The Mirror”
さあさあ、ようやくここまできました。栄えある第1位は“Man In The Mirror”。ここまでの流れからしたら一周回って気味が悪いくらいに代表曲です。
ワールド・ツアーのフィナーレを2度も飾り、「This Is It」でも最後に演奏される予定だったというのも納得の名曲ですよね。「世界をよくしたいなら鏡に映る自分から変えるんだ」というあまりにまっすぐなメッセージが、やはりゴスペルの力強さで届けられます。楽曲後半のアドリブの応酬なんて、MJどころかポップス史に残すべき熱唱ですよ。
まあ、いい曲なのは当たり前として。それ以上に、その歌詞、メロディ、歌声、そして眼差し、この曲の全てが私の愛するMichael Jacksonそのものなんです。冗談でもなんでもなく、彼になら本気で世界を変えられたと思っていて。ヒーローやスターというよりはリーダーとして、人々、少なくとも私を導いてくれたMichael Jacksonの姿が、最もはっきりと捉えられる1曲です。
殿堂入り /まとめ
……1位で終わっとけよという話なんですが。どうせここまで長々と書いたんだから最後にもう1曲くらい語らせてください。殿堂入り、というよりもう曲としてどうこうという話でもない、Michael Jacksonが好きだということを主張するだけの枠です。アルバム“HIStory”のフィナーレ、“Smile”です。
そりゃあ、Michael Jacksonの音楽は大好きですよ。ダンスも映像表現も最高だし、その博愛主義も尊敬してやまないし、なんならプライベートな映像から見え隠れする「ああ、この人ちゃんと変な人なんだな」というチャーミングさも愛おしくてたまらない。それでも、そのうえで、私がMichael Jacksonをこの16年尊敬し続け、愛し続けている最大の理由はこの“Smile”です。
我々人類がMichael Jacksonにしてしまったことは本当に取り返しがつかないことです。彼の死はスーパースターの非業の死でもなければ、馬鹿馬鹿しい陰謀の産物でもなんでもない。ごく自然な、そして無邪気な悪意が世界規模で彼に降り注いだ結果の、血の流れないリンチの結果でしかありません。彼の持病や事故で負った火傷も影響はしていると当然理解していますが、我々がもっと彼に人として払うべき敬意をもって接していれば、あの悲劇は少なからず先送りにできたはずです。私もその一員であることは自覚しながら、それでも声を上げ続けます。私たちが彼から奪ったものはあまりに大きい。
と、ただのファンですら結構ちゃんとブチギレているし、結構ちゃんと絶望してるんですが、なのにMichael Jacksonはこう歌うわけです。「こんな時こそ頑張ってやってみなくちゃ、泣いたって仕方ないんだ。人生は素晴らしいものだってきっと気づくはずだよ、ただ微笑みさえすれば。」
なんて純粋で、なんて優しくて、なんて強いんだろう。こんな人が、たった50年と言われるかもしれないけれど、この世界にいて、懸命に50年生き続けた。それだけが私の希望だし、色んなものを諦めちゃいけないと思わせてくれる最初で最後の楔になっています。
……ちょっと信者臭いですか?実際12~3歳くらいまでは宗教的にのめりこんでいたので、その後遺症と思っていただければ。でも、今も同じことを思ってはいます。もうこの人に限っては音楽としてどうこうで済ませられないんですよね。与えてくれたものが多すぎて。
さて、もう語りだすといよいよキリがないのでこの辺で畳みます。Michael Jacksonの存在やそこへの想いってのは、私の幼少期だったりメンタリティだったり、そういうパーソナルな部分とごっちゃになって心の中にあるものなので、すごく文章にしにくいしそもそも人様に読ませるものでもないんですよ。ここまで書いといてなんですけどね。
でも、多分ここまで読んでいただいた方には「こいつ全体的にキモかったけどマイケル・ジャクソン好きなんだろうな」というのは伝わったかなと思います。でもって、キモいついでにそんなに言うなら1曲くらい聴いてやるかとなればこれはもう儲けものですよ。
ということで、最後にもう一度、彼への感謝と尊敬と愛を込めて。マイケル、誕生日おめでとう!
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