- 第23~11位
- 第23位 “HITnRUN Phase One” (2015)
- 第22位 “Dirty Mind” (1980)
- 第21位 “Graffiti Bridge” (1990)
- 第20位 “The Chocolate Invasion” (2004)
- 第19位 “One Nite Alone… (Solo Piano And Voice By Prince)” (2002)
- 第18位 “ART OFFICIAL AGE” (2014)
- 第17位 “Love Symbol Album” (1992)
- 第16位 “LoTUSFLOW3R” (2009)
- 第15位 “Crystal Ball” (1998)
- 第14位” Come” (1994)
- 第13位 “3121” (2006)
- 第12位 “Lovesexy” (1988)
- 第11位 “Musiclogy” (2004)
第23~11位
第23位 “HITnRUN Phase One” (2015)

先ほど登場した”Phase Two”の性質を思えば、Princeの「今」を切り取った最後の作品、実質的な遺作となりました“HITnRUN Phase One”。ただこちらもこちらで、制作時期やスタッフの面子、そして「HITNRUN」シリーズの狙いを見るに、前作“ART OFFICIAL AGE”の音楽的続編、もう少し無遠慮に書いてしまえば補遺と見てよさそうな1枚ですね。
詳細はまだ登場していない”ART OFFICIAL AGE”に譲るとして、「Prince流EDM」という表現がぴったりな作品です。正直私EDMあんまり得意ではないんですけど、でもあの大袈裟な電子音やリズムって、思えば「ミネアポリス・サウンド」と近しいものもある訳です。そこに上手く乗っかって、Princeの癖をダダ漏れにさせることで(私にとっては)EDMの弱毒化に成功しています。かつ当時お気に入りだったJudith Hillの客演に分かりやすい、風通しのいい作風も特徴かな。
ただこれはタイムラインで追いかけた弊害でしょうけど、前作で驚かされた以上のものはなかったかなと。それでも作品として退屈ということはないし、まだまだ何かしでかしてくれそうな予感がある1枚ではあります。あと何作かここからの展開があれば、私の中での掴み方も変わってきたかもしれませんね……
第22位 “Dirty Mind” (1980)

ブーメラン・パンツ一丁に鋲のついたジャケットを羽織った、如何なる法治国家でも許されないであろう出立ちが鮮烈な3rd“Dirty Mind”。タイトルからして「すけべ心」ですから、この辺りから彼の露骨なセックス・アピールが始まってきます。
実はこれ、音楽的にも当てはまる転身なんですよね。あざとい躍動感を聴かせるデジタル・ファンク、まさしく「ミネアポリス・サウンド」に乗り出したのが本作ですから。そしてシンセサイザーのくっきりした輪郭に負けじと、Princeの個性もいっそう強く打ち出される。その相乗作用によって、今日私たちが思い描くPrinceサウンドの原型が生み出されています。終盤の“Sister”から“Partyup”なんて、そのものズバリという感じですよね。
そういう意味で紛れもなく重要な1枚ではありますし、大手メディアの出しているカタログ・ランキングだとかなり上位にいる作品という認識もあるんですが、30分と小さくまとまりすぎた点、そしてまだ思い切りが足りない点(ほら、これ以降のPrinceの思い切りのよさってポップス史上最高峰ですから)、その辺で今振り返るとインパクトには欠けてしまうかな……いいアルバムなんですけどね。
第21位 “Graffiti Bridge” (1990)

The Revolutionに代わる新たなバック・バンド、The New Power Generation (NPG)との初の作品となった“Graffiti Bridge”。巷ではあんまり支持されていない印象もあるんですけど、個人的には少なからず評価してやれる作品だと思っています。
というのも、はっきりとPrinceがポスト・ヒップホップの時代に接近した初の作品なんですよ。”The Black Album”もそういうアルバムでしたけど、正式なリリースはもう少し後の話なのでね。ヒップホップに繋がるファンクネスの先達として、Pファンクの総帥George Clintonを迎えて“We Can Funk”なんてやっている段階で明白だと思います。アルバム全編通じて、実に正統派かつスリリングなグルーヴを感じられるんですよ。
ただ、ちょっと冗長さも感じてしまうのも事実。新時代のブラックネスに呼応した心意気は素敵ですが、その結果Princeの毒っ気が僅かに薄らいでしまっている。かつ、アルバムも1時間オーバーとなかなかボリューミーですから。もっとも、そこのところを差し引いても面白い作品だと思うし、結構好みのサウンドではあります。リアル・タイムかどうかで反応が分かれたりもするんでしょうか?
第20位 “The Chocolate Invasion” (2004)

第26位の”The Slaughterhouse”でも名前は登場しましたが、NPG Music Clubで公開されていた楽曲で構成された作品“The Chocolate Invasion”です。そうそう、2004年当時と現在配信されているものではトラック・リストが微妙に違っているんですが、今回は現行のバージョンを前提にしている点はご了承を。
経緯からして”The Slaughterhouse”とは双子の作品と言えるんですが、こっちの方が相当に楽曲の精度は高いですね。ミレニアム前後の時期のPrinceが表現できるものとしてはベストに近いんじゃないかな。お蔵入りになったアルバム・プロジェクトの表題でもあった“High”なんて、ジャズ・ファンクへの傾倒が生んだソリッドなグルーヴ感覚にシンセやギターを上手く調和させた名曲。それに作品通じてエロティックな個性が強く出ているのもいいですよね。
そしてラストの2曲、ギターとフルートによるインストの“Gamillah”からAngie Stoneとのデュエット“U Make My Sun Shine”で静謐に締め括るところには、この時期の彼の趣味性が発揮されてもいて。これくらいの塩梅でギミック的にやるなら、実に効果的だと思いますね。この作品を正規にリリースしていれば、あの時期のキャリアももう少しきちんと語られるものになったと思います。
第19位 “One Nite Alone… (Solo Piano And Voice By Prince)” (2002)

これは変わり種のアルバムです。副題にもある通り、Princeによるピアノの弾き語りアルバム、“One Nite Alone…”。似たような趣向の作品に”The Truth”がありましたが、あちら同様本作も長らく単独でのリリースのなかったオマケ枠だったようですね。
で、”The Truth”の時にオマケ扱いするには惜しいと書きましたが、こっちはさらにもったいない。本当に素朴な作品なので、ここまでにしばしば言及してきたPrinceらしいパンチは当然ありません……が!彼の本質たる端正なソング・ライティングとファルセットによる歌唱、これが遺憾なく発揮されたロマンチックな小品じゃないですか。ここまでの数作の不調が嘘のように、いい曲書けてるんですよ。“Objects In The Mirror”のもったいぶった運びなんて堪らないです。
とはいえハイライトは“A Case Of U”、Princeが敬愛するJoni Mitchellのカバーですね。オリジナルがそもそも名曲なところに、キザなくらい情感たっぷりなアレンジを加えた好カバーです。もっと長生きしていれば、こういう趣味性の高い音源も色々出していたかもしれませんね……変わり種は変わり種でも、珠玉の変わり種といった1枚。
第18位 “ART OFFICIAL AGE” (2014)

2000年代に入っても合計11枚の作品を生む程度にはやる気満々のPrinceでしたが(クオリティが伴ったものだったかどうかはともかくね)、珍しく4年ものインターバルを挟んでの作品です。“ART OFFICIAL AGE”、これは待たせただけあって、久しぶりに刺激的な1枚だったんじゃないでしょうか。
開幕を告げる“ART OFFICIAL CAGE”、ここで思わず苦笑いですね。Prince、なんとEDMに接近します。全体的にシンセの趣向が様変わりしていてね。ただ、Princeサウンドにシンセサイザーってそもそも必要不可欠な要素じゃないですか。そこに時代への呼応という、長らく見せてこなかった積極性が感じられるのが嬉しいです。きちんとファンクネスも発揮されているんですけど、どちらかというとクラブ・ミュージック的な派手さがあるのもいいですね。“U KNOW”というバラードでのビート感覚や“FUNKNROLL”の頭空っぽのテンションなんて分かりやすい例です。
そのうえで“BREAKFAST CAN WAIT”では生っぽいジャズ・ファンクという彼らしさも宿し、フィナーレの“affirmation III”ではロマンチックで荘厳なスケールの大きさもあり。ある時期の作品は一辺倒だったものだから退屈なだけで、本作のバラエティの中であれば実に鮮やかに聴こえてきます。新しいこともやって、元々得意なこともやって、それを全部束ねてこれがPrinceでございと主張してくる彼のキャラクターの強さ、その痛快さをまだまだ発揮できるとは。おみそれしました。
第17位 “Love Symbol Album” (1992)

NPGとの第3弾アルバム、例のシンボル・マークを掲げての“Love Symbol Album”をこの位置に。この辺の時期からしっかり聴けていない作品も増えてきます。このアルバムもずいぶん昔に1回聴いたか聴いてないかくらいだった気がしますね。
なんといってもオープナーの“My Name Is Prince”、このインパクトたるや!自身の名曲“I Wanna Be Your Lover”をサンプリングしながら、ヒップホップのエナジーをさらに濃密にしたキラー・チューンです。続く“Sexy M.F.”もJBのファンクネスを継承した鋭さがあって、かなり期待できる開幕なんですよね。そこからもえらく味つけの濃いナンバーが目立っていて、“3 Chains O’ Gold”なんてオペラティックですらある大仰さ。好みは分かれるでしょうけど、私は好きな1曲です。
ただ、いかんせん全18曲はちょっと胃もたれしちゃうかな。後半がちょっと弱いような感もありますね。”Emancipation”と同じく、もっと内容を吟味してまとめてくれればもう少し上の順位につけたかったんですが……ただ、そもそもがPrinceなんて胃もたれしてなんぼのアーティストではありますから。それに本作は聴かせ方からしていいだけ胃もたれさせにきてますし、その重たさも含めて楽しむべき1枚だと思っています。
第16位 “LoTUSFLOW3R” (2009)

第27位に登場した”MPLSoUND”の本体でもあります、2009年の“LoTUSFLOW3R”。個人的に今回のリスニング体験で最も驚かされた1枚ですね。この作品を高く評価している媒体ってあまり見かけないんですが、ここは胸を張ってPrince最大の過小評価作品だと言わせていただきましょう。いいアルバムですよ、これ。
“3121”で折角取り戻した80’sのメソッドを前作”Planet Earth”ですっかり忘れてしまった流れがあるんですが、本作も90’s以降のジャズ・アピールがベースにあります。ただ、そこに”Planet Earth”にも感じられたギタリストとしての気概を上手いこと取り込んでいるんですよ。“Crimson And Clover”や“Feel Good, Feel Better, Feel Wonderful”、あるいはジミヘン・ライクな“Dreamer”のプレイなんて鮮やかだし、タイトルがズバリな“Love Like Jazz”だってダイナミックなバンドらしさがあって、ある時期までの退屈さが感じられません。
そう、旧来ネックだった冗長なまでのリラックス加減もこの作品ではきちんと配慮されていて、例えばインストの“77 Beverly Park”からAOR風味ながら怒涛のギター・ソロが炸裂する“Wall Of Berlin”へと展開する流れなんて、なかなかどうして冴えてるじゃないですか。足がけ10年ほどPrinceのジャズ路線は釈然とするものがなかった訳ですが、この作品でようやく結実したと評価していいと思います。
第15位 “Crystal Ball” (1998)

前作”Emancipation”があまりの超大作だった反動か、彼にしては珍しく2年もの(もの?)空白期間を置いてのリリースとなったのがこの“Crystal Ball”。過去作品のアウト・テイクや既発曲のリミックスをまとめた内容なので、純然たるオリジナル作品とは呼びにくい1枚ではあるんですが。
ただ、なにしろ曲のクオリティが高いんだな。The Revolutionを率いての2枚組作品“Dream Factory”制作時のお蔵入り音源や、その”Dream Factory”プロジェクト廃棄後の大傑作“Sign O’ The Times”でのアウト・テイク、それからまだこのリストに登場していない(ということはそれなりに高順位であろう)“The Gold Experience”期の楽曲、この辺が入ってますから。そんなことも影響してか、前作の落ち着いたテンションから再び猥雑に跳ね回るPrince流ファンクネスも復活していて。
2時間半という前作よりは控えめとはいえそれでもトゥー・マッチな収録時間、そして制作経緯の異なる楽曲の集合体という背景、これはどちらも私にとっての名盤の美学に反するものではあります。なのに曲の充実だけで聴かせきるんだから困ったもんです。独断と偏見と愛で選ぶ以上、しっくりはこないですが感動してしまった事実を重く見て確かに評価させていただきましょう。
第14位” Come” (1994)

Princeが自身の名を葬り去り、発音不可能なシンボルを新たなアイデンティティに。「かつてPrinceと呼ばれたアーティスト」となってから初となるアルバム“Come”ですね。この奇行や、あるいはリリース当時のレーベルとの対立もあったりして、ネガティヴな要素の多い作品ではあります。
このネガティヴというのは決して音楽的な落ち度ではありませんよ。むしろ、作品に対する作用としてはかなり好みな部類です。サウンド/リリックの両面で如何にもな“Race”に分かりやすい、NPGとの諸作で展開したヒップホップの吸収の延長線上にありつつ、全体のトーンとしてはすごく抑制的でダーク、そしてセクシャルなものになっていますからね。“Dark”なんて、流石D’Angeloのルーツと言わんばかりの名曲で。
それと個人的に嬉しいのは、アルバムのサイズ感。過去何作かが軒並み1時間オーバーのヘヴィなものだったところから、50分ほどと比較的コンパクトにまとまっています。やはりアルバムとしてならばこれくらいのラン・タイムの方が好みなんですよね。唯一無二すぎるせいで彼を聴いていてブラック・ミュージックのアンテナが働くことって案外少ないんですが、これはブラック・ミュージックとして端的に魅力的な1枚だと思います。
第13位 “3121” (2006)

前作”Musiclogy”で勘を取り戻したPrinceですが(かの作品がまだランキングに出てきてないということは、そういうことです)、続く“3121”でも引き続き好調ですよ。なにしろ”Batman”以来17年ぶりとなる全米No.1アルバムですからね。実際、それだけの成功に足る名作だと思います。
“Black Sweat”や“Love”なんかではっきりと聴けるシンセサイザーの忙しなさといやらしいファンクネス、あるいは“Fury”でのギターの絡みつき方、かなり「ミネアポリス・サウンド」への再接近を感じさせますよね。80’sのアウト・トラックですと言われたら信じてしまいそうな出来栄えで、ただ後の”20Ten”なんかと異なるのが、90’s以降の彼がやってきた生々しさの吸収がしっかりと反映されてもいる。じっくりとした絶妙な温度感が心地よいじゃないですか。
そしてこのアルバム、クライマックスの強靭さでいくとキャリアでも相当上位なんじゃないかな。正統派バラード“Beautiful, Loved And Blessed”、終盤でははち切れそうなシャウトが炸裂する名曲“The Dance”、そしてハッピーなビッグ・バンド風のファンク“Get On The Boat”とね。全盛期の刺激や驚きこそないものの、Princeに求められるものを当時の彼のモードの中で提示した丁寧で職人肌な作品です。
第12位 “Lovesexy” (1988)

これぞ殿下!と言わんばかりに変態的なアート・ワーク、そして楽曲間の区切りが存在しないという大胆すぎる仕様。この辺りがことさら話題にあがりがちな“Lovesexy”ですけど、内容だって当然素晴らしいんですよ。
ここにきて直近数作での密室ファンク的作風から、「いつものPrince」的な賑やかさを取り戻してるのがポイントでしょうか。冒頭の“Eye No”なんてブラスが華やかだし、アルバムのそこここに漂うオリエンタルな響きなんかも面白くてね。ただ、彼のドギツイ個性はちょっと控えめ。この辺は抑制的なアプローチの残滓とも言えそうですけど、ジャケットのインパクトからイメージされる音像よりはずいぶんとマイルドな作品です。
なので今回聴き直してみて、80’sの大躍進を経て最初期にやったような正統派でスウィートなR&Bへと回帰した1枚と捉えてもいいのかなと感じました。当然そこにはPrinceらしさ、あるいは特有のスピリチュアルな雰囲気はあるんですけど、上質なメロディが効いている瞬間も多いし、さっき触れた通りプロダクションもそれほど尖っている訳でもないですから。1st〜2ndまでの方向性に実は近いなんてリアクション、これまでしたことなかったので意外な発見でした。
第11位 “Musiclogy” (2004)

今回選外とした2枚のジャズ・インストを経てリリースされた“Musiclogy”、ここでようやく殿下は歌いたい気分になってくださいました。そしてまた、これがミレニアム前後の不調をようやく吹っ切った感のある傑作なんですよ。2枚続けてインスト聴かされた反動かと思ってインターバルを挟んで聴き直しましたが、間違いありません。惜しくもTOP10こそ逃しましたが、いい作品ですよ。
なにしろ、思わず「待ってました!」と声を上げたくなるPrince節が炸裂していますからね。顕著なのがアルバム序盤でのこと、破廉恥なギターが唸りを上げる“A Million Days”、華やかさとストイックさの折衷されたファンク“Life O’ The Party”、そしてD’Angeloの”Untitled (How Does It Feel)”への完璧な回答にも思える“Call My Name”、この3連発には打ちのめされましたよ。そうそう、これが聴きたかったんです。
そこからも彼のわがままな趣味性はグッと抑えて、80’sの作品群を彷彿とさせるキャッチーな楽曲をバラエティ豊かに並べています。それは意地悪に評価するなら保守的ということにもなるでしょうけど、そこは流石のPrince、多少手堅く大人しくしててもエキセントリックに仕上がってますよ。ちょっと後半メロウになりすぎな感はありますが、全盛期と比較したってまったく聴き劣りしない見事な1枚だと思います。
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