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“To Pimp A Butterfly”全訳解説 M.6 “u”

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ちょっとの間お休みしていましたけど、今回も“To Pimp A Butterfly”全訳解説、やっていきましょう。

今回は“u”ですね。本作を俯瞰して見つめる中で、ものすごく重要な楽曲です。ラマー自身、「今までで一番書くのが大変だった曲」としていて、非常に大きな意味を持つナンバーですね。

リリックの内容自体はさほど難しいものではないので、比較的直訳に近い状態になっています。ひとまずお読みいただいて、解説でさらに理解を深めていただければ。それでは参りましょうか。

“u”全訳

u

*screaming*

Loving you is complicated, loving you is complicated

Loving you is complicated, loving you is complicated

Loving you is complicated, loving you is complicated

Loving you is complicated, loving you is complicated

Loving you is complicated, loving you is complicated

(叫び声)

お前を愛することは難しい

お前を愛することは難しいんだ……

I place blame on you still, place shame on you still

Feel like you ain’t shit, feel like you don’t feel

Confidence in yourself, breakin’ on marble floors

Watchin’ anonymous strangers, tellin’ me that I’m yours

But you ain’t shit, I’m convinced your tolerance nothin’ special

What can I blame you for ? Nigga, I can name several

Situations, I’ll start with your little sister bakin’

A baby inside, just a teenager, where your patience ?

Where was your antennas ?

Where was the influence you speak of ?

You preached in front of one-hunnid-thousand but never reached her

I fuckin’ tell you fuckin’ failure __ you ain’t no leader !

I never liked you, forever despise you__ I don’t need ya !

The word don’t need ya, don’t let them deceive ya

Numbers lie too, fuck your pride too, that’s for dedication

Thought money would never change you, made you more complacent

Fuckin’ hate you, I hope you embrace it, I swear__

何もかもお前のせいなんだ 恥をかかせてやる

お前はクソッタレ 何も感じないんだろ

お前の秘密をピカピカの大理石の床にバラまいてやるよ

何も知らない連中が何人もそれを見てこう言う 「ケンドリック お前はあの人のものだ」って

でも俺は知ってる お前はクソだ お前の忍耐が大したもんじゃないってことを俺は学ばされたよ

どうしてそんなことを言うのかって? じゃあ理由をいくつか教えてやるよ

まずはこっからだ お前の妹は妊娠してたろ

まだ10代なのに身籠ってた お前の忍耐はその時どこにあった?

お前の関心はどこに向いてたんだよ?知らなくちゃいけないことを知ろうともしないで

そんなお前の言葉に何の重みがあるって言うんだ?

何万人という人に向かってお前は説教をしてたけど そんなもの彼女に届きやしない

お前は取り返しのつかない失敗をしたんだ__お前はリーダーなんかじゃない!

お前を好きになることなんて金輪際ないね 一生軽蔑してやるよ__お前なんていなくていいんだ!

世界の誰からも必要とされてないんだ もう誰も騙されやしないぜ

レコードのセールスや獲得した賞の数 そんなのデタラメさ プライドもクソ食らえ ただの献身のためなんだから

金がお前を変えてくれるかもと思ったけど 結局金はお前の自己満足の道具にしかならなかったな

お前のことがどうしようもなく憎い こっぴどい恥をかけばいいんだ

Loving you is complicated, loving you is complicated

Loving you is complicated, loving you is complicated

Loving you is complicated, loving you is complicated

Loving you is complicated, loving you is complicated

Loving you is complicated, loving you is complicated

Lovin’ you, lovin’ you, not lovin’ you, 100° proof

I can feel your vibe and recognize that you’re ashamed of me

Yes, I hate you, too

お前を愛することは難しい

お前を愛することは難しいんだ……

お前を愛する 愛する いや愛せない 完全に

お前のバイブスを感じるよ 俺に呆れてるのもよくわかる

ああ 俺だってお前が憎いんだ

(Lovin’ you ain’t really complicated)

“Housekeeping, housekeeping”

(What I got to do to get to you ?)

“¡Abre la puerta! ¡Abre la puerta tengo que limpiar el cuarto!”

(To you)

“¡Es que no hay mucho tiempo tengo que limpiar el cuarto!”

(Loving you ain’t really complicated)

“¡Disculpe!”

(What I got to do to get to you ?)

(To you)

(お前を愛することは本当に難しい)

「清掃員です 清掃員ですよ!」

(お前を貶めるためにはどうしてやればいいんだろうな?)

「開けてください!部屋を掃除しにきたんです!」

(お前を貶めるために……)

「時間がないんです 掃除しないと!」

(お前を愛するのは本当に難しいことさ)

「いいですか! 入りますよ!」

(お前を貶めるためには何を……)

(お前を……)

And you the reason why mom and them leavin’

No, you ain’t shit, you say you love ‘em, I know you don’t mean it

I know you irresponsible, selfish, in denial, can’t help it

Your trials and tribulations a burden, everyone felt it

Everyone heard it, multiple shots, corners cryin’ out

You was deserted, where was your antennas again ?

Where was your presence ? Where was your support that you pretend ?

You ain’t no brother, you ain’t no disciple, you ain’t no friend

A friend never leave Compton for profit, or leave his best friend, little brother

You promised you’d watch him before they shot him

Where was your antennas ? On the road, bottles and bitches

You FaceTimed him one time, that’s forgiven

You even FaceTimed instead of a hospital visit

Guess you thought he’d recover well

Third surgery, they couldn’t stop the bleeding for real

Then he died, God himself will say, “You fuckin’ failed”, you ain’t try

*sniffing*

お前のせいで奴らはママと離れ離れになっちまってるのか

いや お前はクソだ 彼らのことを愛してるだって? 思ってもいないくせによく言うぜ

俺は知ってるんだ お前は無責任で 自分勝手で 現実逃避してるんだ どうしようもないクズめ

お前の挑戦と困難は重荷なんだ 誰だってそう思うだろうぜ

みんな聞いたよ 何発かの発砲音と 取り巻きどもの叫び声を

お前は見捨てられたんだ もういっぺん聞くが お前の関心はどこに向いてやがる?

お前自身はどこにいるんだ?お前の偽善をどこにやったんだよ?

お前なんてブラザーじゃない 使者でもない ましてや友人だなんて虫唾が走るぜ

もし友達だっていうなら 俺たちのコンプトンを 俺たちの親友を 俺たちのツレを見捨てたりしないからな

お前のダチが撃たれる前 お前約束してたよな 最期まで見届けてやるって

お前の関心はどこに向いてんだ? 酒と女だけの人生ってか

一回FaceTimeをした それだけだろ あり得ないな

それも直接病院に行くかわりにFaceTimeだ

もうあいつはよくなったなんて思ってたんだろ

3回目の手術の時さ 血が止まらなくなったんだ

そのままあいつは死んじまった 神は言っただろ「しくじったな」お前はやってみようとすらしなかったんだ

(すすり泣く声)

I know your secrets, nigga, mood swings it frequent, nigga

I know depression is restin’ on your heart for two reasons, nigga

I know you and a couple block boys ain’t been speakin’, nigga

Y’all damn near beefin’, I see it and you’re the reason, nigga

And if this bottle could talk *gulping*

I cry myself to sleep, bitch, everything is your fault

Faults breakin’ to pieces, earthquakes on every weekend

Because you shock as soon as you knew confinement was needed

I know your secrets, don’t let me tell ‘em to the world

About that shit you thinkin’ and that time you, *gulping* I’m ‘bout to hurl

I’m fucked up, but I ain’t as fucked up as you

You just can’t get right, I think your heart made of bullet proof

Should’ve killed yo’ ass long time ago

You should’ve felt that black revolver blast a long time ago

And if these mirrors could talk it’d say, “You gotta go”

And if I told your secrets the world’ll know money can’t stop a suicidal weakness

お前の秘密を知ってるぜ 精神がまるで落ち着かないんだろ

お前はひどい鬱に悩まされてる 2つの理由でな

お前とあの連中は喋ったことないんだろ 知ってるぜ

お前が文句を垂れる前に地獄に突き落とされる 自業自得だろ

もしこの酒瓶が喋るとしたらこう語るだろうな(酒を飲み干す音)

俺は泣き疲れて眠るんだ クソが 何もかもお前のしくじり

お前のしくじりが全てを台無しにする 週末が来るたびに地震が襲ってくるみたいな気持ちになるよ

だってお前はすぐにうろたえて 監禁されなくちゃいけないって知ることになるからな

俺はお前の秘密を知ってるんだ こんなことお前を尊敬してる世界中に言わせないでほしいな

お前のクソみたいな考えを それにお前が (再び酒を飲み干す音) 今に暴いてやるよ

俺はキレてんだ でもお前ほどじゃないぜ

お前は自分が正しいなんて言えないよな お前のハートはきっと防弾仕様

もっと早くに こうなる前にお前を殺してしまえばよかった

お前はもっと早くに 黒いリボルバーを自分の頭に向かってぶっ放しておくべきだったのさ

そんでもしこの鏡が言葉を話すとしたらこう言うだろうぜ 「今すぐにやれ」ってな

お前の秘密をバラしたら 世界中が知ることになる どんなに金持ちになっても人間の致命的な弱さってのはどうにもならないってことをな

解説〜Kendrick Lamarの自己嫌悪と鬱状態の告白〜

和訳していてかなり疲れました。いや、“These Walls”に比べれば遥かに理解しやすい内容なんですけど、その悲痛さに精神的に参ってしまいましたね。

“These Walls”で復讐の鬼と化したラマーですが、最後に彼は罪の意識を持っていることを仄めかします。そしてそこからラマーの凄惨な叫び声が木霊し、始まるのがこの“u”です。

“u”とありますけど、まあこれは当然“you”のことですね。スラング(というより現代言葉?)としてかなり一般的ですし、プリンス殿下が楽曲の中でよくこの表現は使っていましたから理解できる方も多いでしょう。

Prince – Nothing Compares 2 U (Official Music Video)

で、リリックを読めば明らかな通りこの楽曲はこの“u”に対する痛烈な批判に満ち満ちています。これまでもこのアルバムではアメリカヒップホップ・シーン、そして彼の親友を殺した男、数々の対象を批判してきた訳ですが、ここでの批判の対象は、「ケンドリック・ラマー」自身

そう、この”u”は自分自身のことなんですね。アルバム後半に収録された“i”との対比になっています。これはこの楽曲の解説の時にしっかり語る予定ですので後に譲るとして、これまでの楽曲の中で最もパーソナルな筆致、そして内省的な詩世界があらわになっています。

そして、彼自身を責め立てる言葉の辛辣さたるや。「お前はリーダーなんかじゃない!」「お前は無責任で 自分勝手で 現実逃避してるんだ どうしようもないクズめ」「もし友達だっていうなら 俺たちのコンプトンを 俺たちの親友を 俺たちのツレを見捨てたりしないからな」……どれもあまりに攻撃的です。

当然、このリリックは彼の実体験に基づくものですので、その辺りを解説していきましょう。この楽曲のインタビューが残されていて、そちらの要約記事もあったので参考にしていただきつつ。

ケンドリック・ラマーが「u」で語った鬱症状。他人に見せていなかった側面と、ポジティブに裏返した彼のセラピー | HIP HOP DNA
メンタルヘルス的な観点や、鬱症状について、自分の経験を語るアーティストは多い。Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)もその一人で、彼が2015年にリリースしたアルバム「To Pimp A Butterfly」は、とことん自分と社会と向き合った作品であった。特に楽曲「u」は、リアルな鬱症状や自己嫌悪がテーマ...

彼がメジャー・デビューを飾ったアルバム、“good kid, m.A.A.d city”の中で、ラマーは「いい子(=good kid)」である彼自身が、コンプトンという「イかれた街(=m.A.A.d city)」で生き延びることの困難さを自伝的に語りました。

そこには苦々しさも交えつつも、確かにコンプトンのレペゼンとしての矜持がありました。同郷の伝説的ラッパー、ドクター・ドレーをフィーチャリングしてのエンディングのタイトルが、まさしく“Compton”であることからもそれは明らかで。

Compton

このメジャー1stが商業的にも批評的にも大成功を収めると、ラマーは一躍スターダムへ駆け上がります。コンプトンに負けず劣らずマッドなショウビズの世界へ、足を踏み入れた訳です。

彼は世界中を飛び回り、賞を総なめにし、富と名声を獲得していきます。その中で、自身のルーツであるコンプトン、何よりも大事にすべきだった家族や仲間を省みることを忘れてしまいます。

彼の妹は10代のうちに子を身籠り、彼の仲間は銃殺される。ラマーがどれだけ成功しようと、コンプトンが最悪の治安であることは何も変わりませんから。そのことに見向きもしない自分が、新時代のメッセンジャー、「ヒップホップの新王者」として偉そうにコンシャスにラップする、そのことの矛盾にも彼は気づいてしまいます。

そうした絶望と後悔が、この楽曲では第三者を責め立てるような体裁で綴られています。この背景さえ理解すれば、リリックの読解は十分可能でしょう。非常にわかりやすく、彼の懺悔が述べられている訳ですから。

なにしろ自殺願望すら口にするんですからね。「もっと早く こうなる前にお前を殺してしまえばよかった」、ここまで悲痛さを伴った希死念慮の告白というのは、おそらく前例として『ボヘミアン・ラプソディ』くらいじゃないですか?

Queen – Bohemian Rhapsody (Official Video Remastered)
同性愛者であることをカミングアウトした楽曲とも一説には言われる『ボヘミアン・ラプソディ』の中で、フレディ・マーキュリーは”I sometimes wish I’d never been born at all”(生まれてこなきゃよかったと時々思うんだ)と慟哭します。

それとこの楽曲では、ラマーのアルコール中毒への言及も見られますね。途中で挿入される清掃員の語りかけ、これは彼が酒浸りになりまともに応対できていない状況を表しています。そこからのラップが唐突にヘロヘロになるのも、彼が泥酔している状態を示しているんでしょうね。

その中で断片的に浮かんでくるフレーズが「あいつを貶めるためにはどうすれば……」という言葉なのも、あまりに辛いんですけどね。酒に逃げてもなお、彼は自己嫌悪から解放されない。どれほど深い悔悟が彼に刻まれているか、想像するだに胸が苦しくなります。

まとめ

今回は”u”の全訳解説に挑戦していきましたが……いやあ疲れた。

ケンドリック・ラマーが当代随一のリリシストであることはこれまでの解説で明らかなんですけど、その土台には彼の鋭い洞察と豊かな表現による批判にあるんです。それが彼自身に向いた時、それが如何に残酷なものになるか……

もっとも、このアルバムは単に彼の懺悔で終始しないのはこれまでの外向きのメッセージで十分理解できることでしょう。そして次の楽曲も、極めて外向きです。”u”では自嘲的に「お前はリーダーなんかじゃない!」とまで言ったものの、次の曲は「リーダー」としてのケンドリック・ラマーの真骨頂ですから。

ということで次回は、BLMムーヴメントのアンセムとしても多くの人々に支持された彼の代表曲、”Alright”の全訳解説です。どうぞお楽しみに。

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