今回も“To Pimp A Butterly”全訳解説、やっていきましょう。過去の解説は↓からまとめてご覧になれますので是非ともご覧ください。
今回は“These Walls”です。前曲に続いてAnna WiseとBilal、それからサンダーキャットにロバート・グラスパーと錚々たる面々が客演していますね。
ただ、そのリリックがとにかく難解です。バックボーンにあるストーリーも勿論ですし、表現が実に多義的で。英語読解ができる方でも、文字を追うだけでこの曲はまるで理解できないんじゃないでしょうか。
そこのところをひとまずは全訳の部分で噛み砕きましたが、今回は解説も併せてお読みいただくことをオススメしておきます。それでは参りましょうか。
“These Walls”全訳
(If these walls can talk, if these walls can talk, if these walls can talk……)
Sex
She just wanna close her eyes and sway
With you, with you, with you
Exercise her right to work it out
It’s true, it’s true, it’s true
Shout out to the birthday girls, say hey (hey)
Say hey (hey), (ah, girl)
Everyone deserves a night to play (play)
She plays, only when you tell her no
(もしそれらの壁が言葉を話すとしたら……それらの壁が口をきけるとしたら……)
セックス
彼女はただ目を閉じて体をくねらせたいのさ
君と一緒にね そう 君と一緒に
君はそうしてやることができるじゃないか
ウソじゃないぜ マジで言ってるんだ
誕生日を迎えた女の子たちに叫んでやれ ヘイ!(ヘイ!)
ヘイ!(ヘイ!)(おい 君のことだぜ)
誰だって夜通しどんちゃん騒ぎするにふさわしいのさ
彼女だってそうさ 君がそんなことしないでくれって言ったとしてもね
If these walls could talk
I can feel your reign when it cries
Gold lives inside of you
If these walls could talk
I love it when I’m in it
I love it when I’m in it, oh
もし君のアソコが言葉を話すとしたら
アソコがグチャグチャになっている時 君に支配されている気分になる
黄金を君の中に感じるんだ
もし君のアソコが話せるとしたら
中に入っている時が堪らない
挿れてる時が堪らないんだ ああ
If these walls could talk, they’d tell me to swim good
No boat, I float better than he would
No life jacket, I’m not the God of Nazareth
But your flood can be misunderstood
Walls telling me they full of pain, resentment
Need someone to live in them just to relieve tension
Me, I’m just a tenant
Landlord said these walls vacant more than a minute
These walls are vulnerable, exclamation
Interior pink, color coordinated
I interrogated every nook and cranny
I mean, it’s still amazing, before they couldn’t stand me
These walls want to cry tears
These walls happier when I’m here
These walls never could hold up
Every time I come around, demolition might crush
もしアソコが言葉を話すとしたら俺に上手く泳げって言うだろうな
ボートもなしにな 俺はアイツなんかより上手くやれるんだぜ
ライフジャケットなんていらないさ 俺はキリストみたいに海の上を歩けはしないけど
でもそんなに濡れてちゃ誤解されても仕方ないだろうな
君のアソコが教えてくれるんだ 君が死ぬほど辛い思いをしていてイライラしてるって
ただその気持ちを誤魔化すために誰かとヤりたいんだろ
俺?俺はただ間借りしてるだけ そう長居はしないつもり
大家の君に言わせれば そんなに短くない期間 アソコは誰のものでもないらしいけどね
アソコが随分繊細なんだな 驚いたよ
中はピンク一色 エロいことでギッシリさ
俺は隅から隅まできっちり調べたんだ
何が言いたいかっていうと アソコが俺に耐えられなくなるまで ずっと最高の気分でいられるぜ
アソコは涙を流したがってる それが涙なのか濡れてるだけなのかは知らないけどな
俺がいるとアソコは大喜び
待つことなんてできっこない
俺が近づくといつも まるで鉄球にぶっ飛ばされるような気分になるだろ
If these walls could talk
I can feel your reign when it cries
Gold lives inside of you
If these walls could talk
I love it when I’m in it
I love it when I’m in it, oh
もしアソコが話せるとしたら
黄金を君の中に感じるんだ
もし君のアソコが話せるとしたら
中に入っている時が堪らない
挿れてる時が堪らないんだ ああ
If these walls could talk, they’d tell me to go deep
Yelling at me continuously, I can see
Your defense mechanism is my decision
Knock these walls down, that’s my religion
Walls feeling like they ready to close in
I suffocate, then catch my second wind
I resonate in these walls
I don’t know how long I can wait in these walls
I’ve been on the streets too long
Looking at you from the outside in
They sing the same old song
About how they walls always the cleanest
I beg to differ, I must’ve missed them
I’m not involved, I’d rather diss ‘em
I’d rather call on you, put your wall up
‘Cause when I come around, demolition gon’ crush
もしアソコが話せるなら 俺にもっと深いところまで行けって言うだろうな
あるいは人種を分かつ壁も同じことを言うだろうね
ずっと俺にそう叫んでくる 俺にはわかるよ
君たちの防衛本能の決定権は俺が持ってるんだ
その壁を破壊しなくちゃ それが俺の信条
壁が今にも襲いかかってくる
ずっと息苦しい思いをしてきて とうとうそれに慣れちまった かえってその方が楽なくらい
俺がどんだけ叫んでも 壁の中で虚しく響くだけ
この壁の中でどれくらい待てるか わかったもんじゃない
ストリート時代が長すぎたみたい
壁の外からやってきた君を見つめてるんだ
連中ときたらいつもお決まりの文句さ
私のアソコはいつだって清潔よ なんて
俺も嘘じゃないと思いたいけど そんなこと気にするべきじゃなかったんだ
俺には関係ないことさ むしろそんな奴ら嫌いだぜ
俺が手に入れたいのはアイツらじゃなくて君なのさ この壁を取っ払ってくれ
だって俺が近づいたら いつものように鉄球のお出ましだからな
If these walls could talk
I can feel your reign when it cries
Gold lives inside of you
If these walls could talk
I love it when I’m in it
I love it when I’m in it, oh
もしアソコが話せるとしたら
黄金を君の中に感じるんだ
もし君のアソコが話せるとしたら
中に入っている時が堪らない
挿れてる時が堪らないんだ ああ
If your walls could talk, they’d tell you it’s too late
Your destiny, accept it, your fate
Burn accessories and stash them on he yard
Take the recipe, the Bible and God
Wall telling you that commissary is low
Race wars happening, no calling CO
No calling your mother to save you
Homies to say you’re irrepetible, not acceptable
Your behavior is Sammy the Bull like
A killer that turned snitch
Walls is telling me you a bitch
You pray for appeals hoping the warden would afford them
That sentence so important
Walls telling you to listen to Sing About Me
Retaliation is strong, you even dream ‘bout me
Killed my homeboy and God spared your life
Dumb criminal got indicted same night
So when you play this song, rewind the first verse
About me abusing my power so you can hurt
About me and her in the shower whenever she hormy
About me and her in the after hours of the morning
About her baby daddy currently serving life
And how she think about you until we meet up at night
About the only girl that cared about you when you asked her
And how she fuckin’ on a famous rapper
Walls can talk (talk)
もしその壁が言葉を話せるとしたら もう手遅れだってお前に言うだろうな
そういうもんなんだ 受け入れろ それがお前の運命
お仲間をチクって 連中を塀の中にぶち込んだんだろ
“The Recipe”と聖書 それから神がいるんじゃないか?
壁はお前にこう伝えるだろうな 売店の質が低いって
たとえ人種に関してゴタゴタがあったとしても 看守には頼れないだろ
ママにヘルプを求めることもできっこない
ムショのお仲間にもお前を買ってる奴なんていないぜ お前は爪弾き者なんだ
だってお前のやったことはSammy “The Bull” Gravanoよろしく卑劣なチクりなんだから
人殺しからチクり野郎に身を落としたんだ
壁は教えてくれるんだ お前がとんでもないクソ野郎だってな
看守のお気に入りになって守ってもらえるよう祈ってるといいぜ
刑期の長さってのが重要なんだ
壁はお前にこう言うだろうな ケンドリック・ラマーの”Sing About Me”を聴けって
復讐ってのはしぶといもんだ お前の夢に出てやってもいいぜ
お前は俺のダチを殺したけど 神はお前の命を取ろうとしなかった
その日の夜さ クソみたいなあの犯罪が明るみに出たのはな
だからお前がこの曲を聴いてるなら もういっぺん最初のヴァースを聴き返すといい
お前を破滅させるために権力を振りかざした俺についてラップしてるからよ
彼女が発情したらいつだって俺と一緒にシャワーを浴びるんだ そのことについてラップしてる
ヤることをヤッたあとで一緒に過ごす俺とあの女のことをラップしてやった
たった今服役してる あの女のオトコについてのラップさ
俺と彼女が夜に落ち合うまで いったい彼女がどれだけお前のことを考えてるかってことをラップしたのさ
お前がシャバに出てきた時 お前のことを唯一気にかけてくれる女についてのラップなんだ
そして 彼女がどんな風に有名なラッパーとヤるのか それについてラップしてるからな
壁ってのは言葉を話せるからな……
解説
いやあ、難解です。かなり意味が取りやすいように意訳したつもりですけど、それでもやはり解説しないと何が何やらですね。
3つの”Wall”
まずはタイトルにもある“Wall”という単語、この楽曲では3つの意味を持つトリプル・ミーニングになっているんですよ。
1つに前半のヴァースで主に用いられている、「女性器」という意味。当然スラングなんですけど、このリリックを読み解く上ですごく重要です。
続いて2ndヴァースで登場する、「人種の壁」というニュアンスの比喩的な”Wall”。このアルバムが黒人社会の闇をテーマの1つにしているのは明らかですし、しっかりとこの楽曲でも反映されているポイントです。
そしてロバート・グラスパーのピアノ・ソロを挟んでからのヴァースでの、「刑務所の壁」というある種最も原義に忠実な”Wall”。この3つが1つの楽曲で登場しているんです。この表現の巧妙さ、流石という他ないですね。
さて、次のチャプターからはこの”Wall”の使い分けに注目しながら、この曲のリリックを紐解いていきましょう。
1stヴァース
楽曲の前半では、ラマーがある女性と肉体関係を持つ様が描かれています。サウンドもいやにセクシュアルでダーク、実に意味ありげです。
この楽曲のリリックの前提にあるのが、ここで語られるのはラマーの友人を殺した男への復讐であるというもの。その復讐というのが、獄中にいる男の恋人をラマーの名声を利用し寝取るという内容なんですよね。
だからこそ、リリックはかなり性的です。「アソコがグチャグチャになっている時 君に支配されている気分になる」なんてかなり露骨ですから。
比喩的表現でも、「上手く泳げ」なんてのは明らかに性行為のメタファーですし。この露骨さ、これまでの思索的な表現から距離を感じる直截的なリリック、これはおそらく復讐に燃えるラマーの激情を捉えたが故なのではないかなと。
2ndヴァース
ここからはやや主張が変わります。先ほども解説した通り、ここからの「壁」というのは主に人種を隔てる障壁のことですね。
楽曲全体のリリックを見渡すと違和感があるのは事実なんですけど、何度も主張している通り、ラマーのリリシストとしての重要な才能の1つに「ミクロとマクロの推移」があると思っていて。彼個人の復讐から、彼が使命を燃やす人種差別への挑戦にトピックを変えるのは、ある意味では実に彼らしい技法です。
「その壁を破壊しなくちゃ それが俺の信条」という一節には、彼の宗教観を感じることもできますね。信条(religion)と壁となると「ジェリコの壁」を連想しますけど、あちらの説話も最後には壁を破壊する訳ですし。
今のところ”To Pimp A Butterfly”では宗教的な表現はそこまで登場していませんけど、次作“HUMBLE”では聖書への言及が増えますからね。そういう彼の個性の一端を垣間見ることのできる表現でもあります。
ただ、そのままシームレスに”Wall”の意味するところが女性器へと戻り、再びコーラスへ。このナチュラルな含意はもうお見事ですね。
3rdヴァース
そして3rdヴァース。先ほども触れたロバート・グラスパーのピアノ・ソロを挟んでのヴァースで、ここから楽曲のトーンはセクシュアルなものから一転しシリアスなムードへと移ります。当然、リリックの内容にも変化が生じる訳ですね。
ここからのラップは、一貫して獄中にいる友人を殺した男への非難です。もの言わぬはずの「壁」が彼に語りかけるというのは、獄中にいる男に向かってラマーが執拗に口撃していることの比喩とも捉えることができそうですね。
この男というのは仲間を密告したようで、そのこともラマーは槍玉にあげます。アメリカの刑務所において、密告者(英語で“snitch”と言います)は最も嫌われる存在で、そのことで孤立無援になった男を嘲笑うんですね。
リリックに登場するSammy “The Bull” Gravanoというのは実在するマフィアの名前なんですが、彼は逮捕された後にマフィアの情報を国に売ったエピソードで有名です。言ってしまえば「世界一有名な密告者」な訳ですね。彼になぞらえられるというのは、かなりな屈辱になるはずです。
それと、リリックの中に登場する固有名詞として解説が必要なのが“The Recipe”と“Sing About Me”。これ、どちらもラマーの楽曲です。
前者に関しては獄中にいる男に対して、聖書と神に並べて自身の楽曲が必要になるという嫌味として機能しているんですが、注視すべきは後者、”Sing About Me”です。
これは“good kid, m.A.A.d city”収録の”Sing About Me, I’m dying Of Thirst”のことなんですけど、この曲で歌われているのが、男に殺されたラマーの友人なんですよね。それを聴けというのが、ラマーの執念深さを感じさせます。
そして最後の怒涛のラップ、この曲がなんのためにあるかというのを再三に渡って主張する訳ですが、それが全て復讐のためであることを明らかにします。淡々と、そして辛辣に。
ただ、この曲の前後に挿入された詩(この詩は最終曲“Mortal Man”にて和訳します)の内容も加味すると、ラマーはこうした復讐を実のところ苦々しく思っていることも読み取れますね。スターとしての権力を濫用し、良識にもとる行為に及んだことへの自己嫌悪の痕跡があります。
次曲で彼は一時深刻な鬱状態にあったことを告白しますが、そのファクターにこうした行為があったことを予見するかのようにして楽曲は締めくくられるのです。
まとめ
今回は”These Walls”の全訳解説を敢行していきました。
このアルバム、後半になるにつきリリックが難解になっていくんですけど、その一端を垣間見ることができる内容でしたね。それに、リリックがより内省的になっていく前兆としても機能しています。
なんとかこの投稿で、この楽曲のリリックを読み取っていただければ嬉しいですね。それでは次回、”u”の全訳解説でお会いしましょう。
コメント